塩田さんに勝利命令
2011年2月4日6:18PM|カテゴリー:シジフォスの希望|Kataoka
シジフォスの希望(43)
「ずいぶん待たされたので、他人事のような気がする。ウソみたいだ。でも本当にうれしい」。本誌の取材に応じたことでアサイン停止(事実上の解雇処分)を受けた全国一般東京東部労組阪急トラベルサポート支部の委員長・塩田卓嗣さんの第一声。噛みしめるような言葉に、東京都庁34階にある労働委員会の一室は拍手と歓声に包まれた。
塩田さんと組合側が救済を申し立てていた不当労働行為事件で、東京都労働委員会は2月4日、阪急トラベルサポート(本社・大阪市、西尾隆代表取締役)の行為を労働組合法第7条で禁じられている不当労働行為だと認定。(1)添乗業務への復帰(2)アサイン停止から業務復帰までに受け取るはずだった賃金の支払い(3)労働組合側への「今後、このような行為を繰り返さないよう留意します」との文書の交付――の3点を会社に命じた。ほぼ100%の勝利と言ってよい。
2009年3月18日に、塩田さんが旅行派遣添乗員の仕事と職場を一方的に奪われてから2年近く。加盟している東京東部労組と支部組合員の支援を受けて、塩田さんは闘ってきた。多くの支援のカンパが寄せられ、本誌も「金曜日ツアー・佐高信と行く岩手の旅」(2010年4月)などを実施し支援の輪に加わった。しかし、それだけでは生活はままにならない。塩田さんは自宅近くのコンビニでのバイトを余儀なくされる。この日(命令当日)も、そのコンビニでの深夜勤明けから都庁に直行。眠たそうな目をこすりながら、都労委命令を受けた。
一人の労働者が食いつなぐためには仕事をするしかなく、仕事と職場を奪われることは暮らしと命を奪われるに等しい。派遣添乗員の塩田さんは、それでなくとも「契約打ち切り」という会社側の合法的な仕打ちを受けやすい立場だ。それを踏ん張っての勝利命令は、有期雇用で働く多くの人たちに勇気を与えると思う。
問題は、この命令を会社(阪急トラベルサポート)が守るかだ。会社側には再審査(不服)申し立てという法的手段が残されている。この会社が働く者にどういうことをしてきたかは、これまでの経緯を見ればある程度分かる。しかしこの命令を区切りに、法廷ではなく話し合いによって物事を解決する道を選んだらどうか。佐高信・本誌編集委員も書いたように、〈「阪急」創業者の小林一三が泣いているのではないでしょうか。〉 (2011年2月4日・片岡伸行)