きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

法を実行し不正をなす

シジフォスの希望(5)

 「ドイツには、法を犯すことによって不正をなす裁判官よりも、法を実行することによって不正をなす裁判官のほうが、かぎりなく多く存在している」(石黒英男訳・河出書房新社)と、ベルトルト・ブレヒト(1898~1956年)が書いたのは1928年のことだ。その5年後の1933年1月30日にアドルフ・ヒトラーを首相としたナチス政権が成立する。
「裁判をめぐるスキャンダルについて」と題した短い一文の中で、ブレヒトは公権力(政府)と司法機関との関係について触れているが、たとえばビラ配布逮捕だとか名誉毀損に関わる言論弾圧といったような具体的な訴訟事例を挙げているわけではない。にもかかわらず、再度このわずかなセンテンスを読むと、80年近く前の(その後、友好国になった)ナチス・ドイツがとても身近に感じられ、3度目に声を出して読んだりすると、まるで21世紀初頭の日本の状況を言い当てているように思われる。

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