シジフォスの希望(16)
私が自民党員(あるいは創価学会員)なら、即刻やめるべきだと言うだろう。
アソウ自民党のテレビCMである。あれほど効果的な支持率ダウンのイメージ戦略を、私はかつて見たことがない。
映像は「麻生太郎です」で始まる。
しょっぱなからして、正面を向いたアップの顔が、あの目つきからしてどう見ても悪代官顔。庶民のことなんかどうでもよく、むしろその血と汗(命さえも)を搾り取って、越後屋(財界の隠喩)あたりとうまい汁を吸うことしか考えていない小物の悪徳権力者然とした下心が、余すところなく伝わってくるではないか。この映像制作者に思わず拍手を送りたくなる。
次に、彼はこう言う。
「不安を抱えながら生きるのは、なにより辛いことです」
その嘘っぽさにおいて類を見ない。東京・渋谷の一等地にある自宅の土地だけで(Webサイト「ZAKZAK」9月13日の記述によれば)約62億円、そのほか軽井沢に別荘(約2億円)を持ち、福岡には東京ドーム(4万7000平方メートル)がすっぽり入るくらいの広大な敷地を持つ実家があり、カップラーメンを「400円くらい」と言う、地道な叩き上げによる涙ぐましい努力によってその資産を築いたとは到底思えない彼の口から出た、これ以上ない白々しさ。「不安」とは最も対極にある人間からそう言われたとき、フツーの人は「てめえ、おちょっくってるのか!」と反応するしかない。
彼は続ける。
「景気への不安、暮らしへの不安を払拭するために……」
そもそも、そんなダブル「不安」を作ったのは誰だ!という怒りが、じわじわと食道から喉元あたりにこみ上げてくる。その反省もなく、さらに――。
「そして、次の対策へ。世界規模の金融危機から日本の経済を、国民の生活を守るため、さらなる景気対策を進めます」
途方もなく空虚だ。「金融危機」の震源地である米国の言いなりに、『年次改革要望書』(米国が毎年、日本政府に突きつけている要求書)どおりにこの国を変えて、戦争支援の無料給油や大企業優遇の税制・労働法制を進め、「国民の生活」をズタズタにした張本人は、自民党と公明党である。そこから推されてソーリになったアソウに、「さらなる」ことをやられたら、たまったものではない。
そして最後に、彼は強い決意を込めた調子で、こう言う。
「具体策で、こたえる。自民党」
めまいがする。確かに、米国には「具体策で」応えてきた。「ブッシュのポチ」という、言葉の正確な意味でそのとおりのコイズミ以降はとくに。でも、庶民にとっては「こたえる」という漢字が「堪える(我慢して耐える)」なのだ。
この短いCMにインパクトを与えているのは、あの、ひんまがった口元である。こいつは間違いなく本音を言っていない、自分以外の人間を見下していることを必死で悟られまいとするあまり、あんなにひんまがってしまったんだという確信にも似た心証を、見る者すべてに与えてしまうのだ。まるでサブリミナル(潜在意識に働きかける効果)のように植えつけられてしまう映像の力……。
彼のファンが多いというアキバの人たちと共に、「アソウ、頑張れ!」と言っておこう。いくら解散を引き延ばそうが、次の総選挙には、このCMがいかんなく効果を発揮するだろう。自民党崩壊を決定的にするために、ぜひ次回作を(片岡伸行)。
(2008年11月7日)