辺見庸さんへのインタビューに寄せて
2009年1月27日7:15PM|カテゴリー:シジフォスの希望|Kataoka
シジフォスの希望(24)
「じつは新聞労連にいまして……」「ああ、そうなんですか……」――。話はそんなふうにして始まった。1月中旬、とあるホテルの会議室。濃い臙脂(えんじ)色のソファーに向かい合って座った。それから約2時間。世界と日本の現状およびメディアや資本主義や民主主義などをめぐる、根源的かつ極めて刺戟的な話が続いた。
冒頭のやりとりには意味がある。共同通信社にいた辺見庸さんにとって日本新聞労働組合連合(=新聞労連)はいわば古巣の一つである。というだけではなく、あれからまもなく5年が経つのだというある種の感慨のようなものが一瞬、私の心をかすめた。
辺見さんは新聞労連の講演で具合が悪くなり、病院に運ばれた。一報を聞いたとき、とても衝撃を受けた記憶が残る。私もかつて新聞労連の一員であり、さまざまな会議や集会や講演などに数え切れないほど参加したが、辺見さんが倒れた講演の場には居合わせなかった。
脳出血で倒れた後も、がんが辺見さんを襲う。入院中も執筆を続けた。身体性は思考に影響を与える。その後の筆致の、思索の、研ぎ澄まされ方に、ある種の変化を感じ取った。不自由な身体からの融通ないしは無碍(むげ)。世界や人間の芯の部分に、ぐさりと錘(おもり)を下ろしているような感じ。
インタビューの内容は「辺見庸 特別インタビュー〈同時性のパンデミックを語る(上)〉」として、『週刊金曜日』1月30日号に掲載される。「下」も近く載る。また、2月1日にはNHK教育・ETV特集(午後10時~)にも出演する。ファンならずとも、辺見さん渾身(こんしん)の語りに耳を澄ませてほしい。 (2009年1月27日・片岡伸行)