ディベート「死刑」(上)
2009年7月14日6:24PM|カテゴリー:シジフォスの希望|Kataoka
シジフォスの希望(32)
5月に裁判員制度が始まり、その初公判が8月に迫っている。「国家による殺人」である死刑をいよいよ、くじ引きで選ばれた市民が宣告するときが近づいてきた。そうした中、作家の森達也さんとライターの藤井誠二さんを迎え「僕らにとって死刑って何だろう?」と銘打った学生参加型シンポジウムが7月11日、東京・池袋の立教大学で開かれた(同大学・服部孝章教授と砂川浩慶准教授の両ゼミ、『週刊金曜日』の共催)。350人以上の市民・学生で会場は埋め尽くされた。
シンポではまず、死刑「廃止」派と「存置」派(藤井さんが「スンニ派とか、みたいじゃない?」と苦笑していた)に分かれた学生たちがそれぞれの理由を述べた。「廃止派」は齋藤美雪さん(4年)、李周炫さん(3年)、大塚功祐さん(2年)の3人。「存置派」は上田岳雄さん(3年)、宋美恩さん(3年)、古庄剛章さん(2年)の3人だ。
「廃止派」の理由は、
①現在執行されている絞首刑は、拷問および残虐な刑罰を禁じた憲法第36条違反である
②死刑は犯罪に対する償いになるのか。償いには反省が必要で、被害者補償の観点からも生かして償わせるべき
③国家は国民である加害者を更生させる義務があり、死刑は加害者を排除するもので更生義務を放棄する行為だ――の3点。
対する「存置派」の理由は、
①仮釈放のある無期懲役では社会正義・社会秩序が保たれない
②憲法第31条は「法律の定める手続き」によれば「生命もしくは自由を奪う刑罰」を可能としている
③被害者遺族を含めて国民の約8割が死刑を支持している――の3点だ。
この立論をもとに、森さんと藤井さんが絡んで討論が展開されたわけだが、やりとりの紹介の前に、当日の資料として配布された「死刑」をめぐるデータをいくつか整理しておこう。
〈死刑廃止が世界の主流に〉
世界の死刑廃止国は139カ国(法律上、死刑制度のない国94、死刑執行がない事実上の廃止国35、通常の犯罪では死刑がない国10)で、死刑制度がある国は58カ国(アムネスティ・インターナショナル、2009年7月8日)。「死刑廃止」が世界の主流となっている。
国別の死刑執行数を見ると、1位:中国、2位:イラン、3位・サウジアラビア、4位・パキスタン、5位・米国、6位:イラクと続き、日本はリビアに次いで11位(アムネスティ・インターナショナル、2007年データ)。
〈殺人認知件数の減少〉
日本における殺人の認知件数は、1954-55年の約3000件をピークに、いわゆる高度経済成長期を通して下がり続け、1991年のバブル崩壊後はやや横ばいながらも2006年には1955年の半分以下の約1300件にまで減少している(警察庁統計)。1955年と言えば「昭和30年」で、あの『ALWAYS三丁目の夕日』の舞台となった時代である。当時に比べて、「殺人」は半減している。にもかかわらず「体感治安」が悪化しているように思われるのは、これでもかとセンセーショナルな事件報道を繰り返すメディアの報じ方に問題がある、との指摘もある。
以上のようなデータを前提に、学生たちは「存置派」と「廃止派」に分かれて議論を繰り広げたのである。
つづく
(2009年7月13日・片岡伸行)