きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

1センチメートル四方の誇り(2)

シジフォスの希望(38)
 国労組合員のバッジ着用をめぐるJR東日本との闘いは国鉄が分割・民営化された1987年から連綿と続けられてきたが、2006年11月に中央労働委員会での「包括和解」に至る。しかし、その「和解」の中には国労バッジ着用を理由とする数々の処分についての記述がなかったことから、辻井さんらは国労中央本部と同東日本本部に抗議文を提出する。

「国労がバッジ処分の撤回を求めて労働委員会闘争を闘ってきたのは、会社の不当労働行為を追及し、その根絶を図ることが目的だったはずです。しかし、今回の和解には、『会社に二度と不当労働行為をさせない』『バッジ処分を出させない』という保証が何ひとつありません。それどころかこの『包括和解』は、分割民営化以来20年にわたる会社の不当労働行為責任をうやむやにし、国労の側が不当労働行為を全面的に容認するものとなっています。……私たちは国労組合員としての誇りにかけて、この『和解』を拒否します」

 方針転換後の国労と一線を画し、ただ一人で国労バッジ着用を続ける辻井さんに対して、JR東日本はより重い懲戒処分である出勤停止を重ね、さらには定年後に再雇用しない旨の予告をする。『週刊金曜日』09年6月26日号に掲載された「辻井さん対JR東日本のバッジ闘争」の記事(筆者・古川琢也さん、バックナンバー注文ページ)にこうある。
「02年以来、JR東日本による辻井さんへの処分は総計55回。失った生涯賃金は1000万円にも上るという」
 たった一人だから簡単にひねりつぶせるはずだ。資本金2000億円、6万人以上の社員を抱える巨大企業・JR東日本はそう思ったに違いない。しかし辻井さんは屈しなかった。

 そして、勝利命令。神奈川県労働委員会は先月26日、JR東日本に対して、辻井さんへの不利益処分の回復を命じるとともに、下記の文書を渡すよう命じた。
「当社が申立人に対し、国鉄労働組合のバッジを(略)着用したことを理由として出勤停止処分を行ったこと及びこれらの処分を理由に期末手当の減額の措置を行ったこと並びに定年後に再雇用しないと予告したことは、神奈川県労働委員会において労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。 平成 月 日  辻井 義春殿」

 前出の記事の中で辻井さんはこう述べている。
「私も来年2月末に定年を迎えます。恐らくその日、このバッジを外すことになるでしょう。でもバッジをつけようとつけなかろうと、国労の誇りを胸に闘う人が増えてくれればそれでいい」
 2月26日(金)午後6時30分から東京・飯田橋のSKプラザ地下ホールで「国労バッジ事件」勝利報告集会(『週刊金曜日』協賛)が開かれる(本誌2月19日号「市民運動案内板」に詳細)。その2日後、辻井さんは「誇り」を胸に定年退職する予定だ。
                                                      (2010年2月15日・片岡伸行)

1センチメートル四方の誇り(1)

シジフォスの希望(37)
 文字通り「孤軍奮闘」であり、不撓不屈の闘いだ。辻井義春さんは1974年7月に国鉄(日本国有鉄道)に入社し、2カ月後の9月に国労(国鉄労働組合)に加入するとともに、勤務時間中の「国労バッジ着用」を始めた。現在も国労組合員としてバッジ着用を継続している。わずか約1センチメートル四方のバッジ着用をめぐり、JR東日本は「就業規則違反だ」として不利益処分を繰り返す。しかし先月、辻井さん勝利の命令が出た。
 2010年1月26日、神奈川県労働委員会(関一郎会長)はJR東日本の行為を労働組合法第7条に該当する不当労働行為だと認定し、「就業規則違反」を理由とした処分によって減額した賃金に利息を付けて支払えと命じたのだ。

 それにしてもJR東日本の攻撃は異常だ。上記の不当労働行為救済申し立て事件の「命令書」=神労委平成20年(不)第2号=の記述から要約する。
 中曾根康弘政権時代に国鉄が分割・民営化(1987年4月)された翌月のことだった。
「会社にとって必要な社員、必要でない社員のしゅん別は絶対に必要なのだ。(中略)おだやかな労務政策をとる考えはない。反対派はしゅん別し断固として排除する。等距離外交など考えてもいない。処分、注意、処分、注意をくり返し、それでも直らない場合は解雇する」(JR東日本常務取締役・松田昌士、経営計画の考え方等説明会で)。
 さらに、松田常務は同年6月20日の鉄道労連高崎地方本部主催の学習会でこう述べる。
「就業規則で認めていないことが何で労働運動か。したがって、今度は、人事部長名であらゆるところに掲示して宣戦布告し、個人説得をするなどしてそれでも従わなかった者には処分という形で警告を与えた。しかし、これでは終わらない。どしどしやっていかなければならない。どうしても一緒にやっていけない者は解雇するしかない」

 JR東日本の組合員攻撃はエスカレートした。指導から警告、そして厳重注意処分による一時金の減額などの不利益処分を乱発。「服装整正違反」を理由に処分された者は1987年6月に4883人、11月に2089人、88年11月に2162人、89年5月に2454人、90年3月に2298人、9月に2077人、91年3月に2053人……(これが毎年延々と続いて)2002年3月に314人……。こんな会社の動かす電車に日々乗らざるを得ないのは何とも悔しい。
 
 辻井さんは申し立ての中でこう主張した。
「国労バッジ着用は、日常的な服装の一部として、国労組合員が国労に所属することを表象するものに過ぎない。国労バッジは、約1・2センチメートル四方程度の四角形の小さな物であり、着用していてもほとんど目立たない。このようなバッジを着用して就労しても、物理的にも、社会的にも、その労務の提供を妨げたり、疎かにしたり、又は誤らせるおそれを生じさせるものではない。(中略)したがって、国労バッジ着用は、就業規則違反に該当するか否かを論じるまでもなく、正当な組合活動である」。   (つづく)

                                   (2010年2月15日・片岡伸行)