新しい帝国主義国家を利己心国家と切り捨てるリーダーを求める
2010年10月21日2:03PM|カテゴリー:多角多面(発行人コラム)|北村 肇
<北村肇の「多角多面」(3)>
利己心は結局、自分自身を傷つける――数少ない心を許せる人生の諸先輩からたびたび聞かされたことが、この歳になると実感できる。もらったり、ましてや奪ったりするより、与えることのほうがはるかに幸せだ。血気盛んなころは、何かと勝負しては勝って利を得ることに血道をあげていた。若気の至りといってしまえばそれまでだが、随分と無駄な時間を過ごしたものだ。
さて、世界を見回すと、利己心にあふれた国家ばかりでくらくらする。二つの世界大戦を経験し、少しは大人になったはずなのに、またまた「オレのものはオレのもの。あなたのものも私のもの」といきり立つ国々が目立ってきた。多くの識者が指摘するように「新しい帝国主義時代」の到来と言っていいのだろう。いい悪いは別にして、日本はその現実に対する感覚が希薄だった。だから、尖閣諸島(中国名・釣魚台列島)に対する中国の先鋭的態度や、北方四島問題に関するロシアの強硬姿勢をどう解釈していいかわからなくなっている。難しくはない。帝国主義なのだから、領土に執着するのは当然なのだ。
急速な円高に手をこまぬいていた政府・日銀は、9月15日、市場介入に踏み切った。だが、効果はたちまち薄れ、いまや「70円時代」が視野に入ってきた。これも当たり前のこと。利己心にとらわれている主要各国は自国の通貨防衛が最優先で、かつてのような協調介入はありえない。にもかかわらず単独介入した日本が、世界からどういう目で見られているかは推して知るべしだ。
今月半ば以降、中国で大規模な反日デモが起こっているが、保守派の影が見え隠れすると報じられる。帝国主義国家は、外には侵略、内では管理に走る。経済格差にあえぐ中国では、農村中心に閉塞感が高まる。体制批判につながりかねない憤懣のエネルギーを管理するには、それらを海外に向ければいい――これもまた帝国主義国家にとっては常道だ。
最悪の道筋は、日本でも帝国主義的な雰囲気が高まること。中国と同様、経済格差による不満は相当程度に高まり、そのエネルギーが排外主義に転換しつつある。幸いというか、皮肉にもというか、菅直人氏という弱々しい総理のいることが一定の歯止めになっている。だが、それだけでは真の解決にはとどかない。いまこそ、地球レベルで利己心を捨てることこそが、平和と人権の守られる世界をつくれるのだと、中国にもロシアにも、むろん米国にも堂々と主張すべきだ。青臭いと言われても構わない。「オレのもの、私のもの」と目の色を変える青二才をギャフンと言わせるだけの胆力があれば、多くの市民はそのリーダーについていくだろう。(2010/10/22)