きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

2011年は、「民意」とは何かが問われる年になる

<北村肇の「多角多面」(12)>

 小沢一郎氏が与謝野馨氏と囲碁対決をした。このこと自体はさして珍しくはない。二人はかねてから囲碁ライバルとして有名だ。だが、前回の対決が丁度、小沢氏と当時の首相、福田康夫氏が大連立に向けて動いたときで、今度も小沢新党の旗揚げかと騒がれている。確かに、新党にしても自民・民主の大連立にしても、与謝野氏がキーパースンになる可能性は強い。同氏と関係の深い読売新聞・渡邊恒雄氏がフィクサーとも囁かれる。

 政界再編との関連には当然、私も関心がある。だが、それ以上に興味をもったのは、件の対決がニコニコ動画で生放送されたことだ。小沢氏はしばらく前にも、新聞・テレビをふって、ニコ動でインタビューに応じた。民主党代表選挙の際、マスコミとは違い、インターネット空間では「小沢支持」がむしろ主流だった。新聞・テレビの度を越した「小沢批判」に対する怒りも目立った。小沢氏はこうした状況をもとに判断したのだろう。

 小沢氏のこの選択は大きな意味をもつ。「民意とは何か」という本質的な問題提起をはらむからだ。ここ数年、マスメディアの世論調査が異様に多いばかりではなく、マッチポンプ化していることについては、何度か触れてきた。それでも、新聞・テレビの信頼度はまだまだ高く、いまのところ世調結果がイコール「民意」であることに変わりはない。しかし、その状態が続く保証はない。今後、「新聞を読む層」「テレビを見る層」「インターネットから情報を得る層」によって「民意」が異なってくる可能性がある。

 実際、多くの若者が新聞を読まなくなっている。テレビ離れも急速に進む。これに対し、インターネットメディアはまだまだ伸張する。どこかの時点で、「ネットから情報を得る層」が「民意」の中心を占める可能性は限りなく高い。そして、このことに私は危機感を抱く。

「民意」は必ずしも「正義」ではない。だから、時として「民意」を批判し、あるべき道筋を示すのがマスメディアの役割だった。むろん、「権力監視・批判」というジャーナリズム精神が確固として存在することが前提だ。ところが現状はどうか。その前提が崩れた中で、政治権力の思惑に乗ったプロパガンダにより「民意」をあおっている。一方で、インターネット空間はまだ成熟しておらず、本来、新聞が持つべき「ご意見番」的な存在が生まれていない。マスメディアが作り上げた「民意」も、星雲状態での言説が生み出す「民意」も、ともに危険性をはらんでいるのだ。時代変化の速度を含め、これからの「民意」をどうとらえたらいいのか。2011年は、そのことが鋭く問われる年になるだろう。

 次回は1月14日アップです。来年もよろしくお願いします。(2010/12/22)

池上彰現象、マイケル・サンデル現象を考える

<北村肇の多角多面11>

 いい質問ですねぇ!
 ジャーナリストの池上彰さんが柔和な笑顔でそう言うと、質問者はそれだけで満足してしまうのかもしれない。池上さんとは、30年近く前、同じ社会部記者として現場ですれ違ったことがある程度で、面識はない。テレビもほとんど見ないので、特に関心もなかった。だが、次々に著作がベストセラーになり、ついに今年の流行語大賞にまで選ばれたとあっては、「池上現象」について考えざるをえない。

 のっけから話がずれるが、マイケル・サンデル・ハーバード大学教授の「これからの『正義』の話をしよう」が、この種の単行本では異例の売れ行きとなった。内容は一種の哲学入門書だが、こちらもテレビの影響が大きく、NHKの番組がそのまま本になったと勘違いした人もいたのではないか。

 サンデル教授を持ち出したのは、「池上現象」に通じるものがあるからだ。それは「何でも知っている人に、わからないこと、知っておくべきことを教えてもらう。しかも、わかりやすく簡単に」ということである。教授には叱られるだろうが、かなりの視聴者・読者は、“お手軽”に講義を受け、なおかつ自分のものとしたいのだ。だから、いろいろと思索をめぐらせながら最後まで著作を読み通した読者は、意外に少なかったように思う。

 大学生が選んだ今年の言葉は「迷」だった。まさしく、だれもかれもが迷路に入り込んだような社会の到来だ。どの道を進めば正解なのか、どの情報が正しいのか、皆目、検討もつかない。闇雲に突き進んでしまう人もいれば、どうしていいかわからず途方に暮れる人もいる。だれか教えて!正しい道を、情報を――そんな叫び声が聞こえてくる。

 池上さんは記者会見で自分の人気ぶりについて感想を聞かれ、「バブルです」と答えた。気持ちはわかる。ジャーナリストの仕事は、取材に基づいて事実・真実を伝えることであり、その情報をどうかみ砕き、自らの生き様に結びつけるかは読者しだいである。なおかつ、どれほど優れたジャーナリストでも、あらゆる分野での取材は不可能だ。難問をすべて解決してくれるかのような幻想を抱かれてはたまらないだろう。

 池上さんもサンデル教授も来年は、しゃぶりつくされているかもしれない。そして次なる「博士」を求め、多くの人がさまよい始める。一人で情報の海を泳ぎきるだけの体力も余裕もなければ、とりあえず「人気」のあるブイにすがるしかない。いたちごっこの先には何があるのか。これもまた「迷」だ。(2010/12/17)

情報という「核兵器」が拡散する時代に生まれた『ウィキリークス』

<「北村肇の多角多面」10>

「『ウィキリークス』は神ですか? 悪魔ですか?」と、よく聞かれる。巨大権力が隠蔽する事実の暴露。これはまさにジャーナリスト最大の任務であり、その点からみれば躊躇なく「神」と答えるべきだ。だが、どこか心に引っかかるものがあり、なかなかすっきりしないのが偽らざるところだ。

 自分の中で確信を持てない理由は、創設者、ジュリアン・アサンジ氏の「目的」が判然としないからだ。ジャーナリストはなぜ、隠された情報を明るみに出そうと必死の努力をするのか。それは「社会をいい方向に一歩でも動かす」という目的のためだ。隠蔽された事実を取材によって暴き公表する行為は、あくまでも「手段」である。

 告白すれば、新聞記者時代、手段が目的化したことがある。誰も知らない情報をつかみとり記事化する、そのこと自体が喜びであり、エキサイティングであり、目的だった。紙面化がもたらす結果は二の次、三の次だった。若気の至りとはいえ、ジャーナリズムの本道を忘れていたころを振り返ると、いまも嫌な汗がにじんでくる。

 アサンジ氏の発言をみる限り、一連の行為には「正義」が強調されている。そこに曇りがなければ、彼は超一流のジャーナリストである。しかし、情報入手とその公開自体が目的なら、評価を変えざるをえない。正直、現時点では、どちらなのか判断がつきかねる。

 いずれにしても、国家権力によるアサンジ氏への弾圧には、断固として反対する。各国政府の彼に対する圧力に同調することは、ジャーナリズムの存在基盤を揺るがしかねない。報道に携わる人間は、いかなる手段を使おうと隠蔽された情報を暴く――それが大原則だからだ。

 米国の元国防次官補、ジョセフ・ナイ氏が「核兵器の時代は終わった。これからは情報核時代になる」と予言したのは何年前だったか。米国は、情報が世界を支配する最大の「力」になることを予想し次々と手を打った。エシュロン(通信傍受システム)しかり、インターネットしかり。それらが米国を一層、覇権国家へと押し上げたのは間違いない。だが、巨大国家は、たった一人の若者に足をすくわれた。

 21世紀はそういう時代なのだ。仮にアサンジ氏を拘束しても、第2第3のアサンジ氏が生まれるだろう。いかなる権力といえども、もはや情報の独占は不可能だ。国家権力の立場から見れば、「情報核の拡散」時代に入ったのである。(2010/12/10)

「櫂未知子の金曜俳句」12月末締切の投句募集について

『週刊金曜日』2011年1月28日号掲載の俳句を募集しています。
【兼題】 「年忘(としわすれ)・忘年会」もしくは「湯たんぽ」(雑詠は募集しません)
【締切】 2011年1月5日(水)必着=年末年始休業明けまで延期します。
【投句数】1人計10句まで何句でも可
※特選に選ばれた句の作者には、櫂未知子さんの著書をお贈りします
 

【投句方法】官製はがきか電子メール
(氏名、俳号、電話番号を明記)

【投句先】
郵送は〒101-0061 東京都千代田区三崎町3-1-5
神田三崎町ビル6階 『週刊金曜日』金曜俳句係宛。

電子メールはhenshubu@kinyobi.co.jp
(タイトルに「金曜俳句投句」を明記してください)

【その他】新仮名づかいでも旧仮名づかいでも結構ですが、一句のなかで混在させないでください。
なお、添削して掲載する場合があります。

金曜俳句への投句一覧(11月末締切、兼題「神の留守」)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です

選句結果と選評は『週刊金曜日』12月24日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。

『週刊金曜日』の購入方法はこちらです

amazonhttp://www.amazon.co.jp/)でも購入できるようになりました。予約もできます。
「週刊金曜日」で検索してください。配送料は無料です。

(さらに…)

金曜俳句への投句一覧(11月末締切、兼題「時雨」)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です

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どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。

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菅首相、いまこそ平和外交に立ち上がりなさい

<「北村肇の多角多面」9>

 なんで、こういつも絶妙なタイミングなのか。「風が吹けば桶屋がもうかる」ではないが、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が世情を賑わすたびに、日本の保守派(特に日米同盟堅持派)に利益がころがりこむ。おそらく沖縄県知事選にも影響を与えたであろうし、近く出される防衛大綱の議論にも響くはずだ。武器輸出三原則の見直しが進んでしまうかもしれない。

 さらにイライラするのは、「武力には武力を」という態度が真っ当なものとされかねないことだ。北朝鮮の行為を容認することはできない。しかし、それを引き起こした「原因」についても目を向ける必要がある。自国領土から肉眼で見える海上で軍事訓練を展開される気分はどうなのか。韓国政府もまた「力」を誇示していたという事実を見逃すべきではない。とどのつまり、朝鮮戦争を終結しない限り、緊張関係の解消はありえないのだ。そして、その解決の手段を「武力」に頼るべきではない。

 米国は砲撃事件を受け、直ちに韓国との合同訓練を実施した。これは同国にとって渡りの船だ。中国の南シナ海への進出に対し、米国は苦虫をかんできた。黄海(西海)での米韓合同訓練を何度か試みたものの、そのつど中国の猛反撃にあい断念してきた。だが、今回ばかりは格好の大義名分が出来たのだ。全長333メートルの原子力空母「ジョージ・ワシントン」は北朝鮮を威嚇しただけではない。中国に対する強烈なメッセージである。

 さらに見落としてはならないのが、同空母は横須賀から出航したという現実だ。日本は確実に、未だ休戦状態である朝鮮半島の緊張関係に当事者として関わっている。そのことが明々白々になったのである。

 すでにマスコミは「ますます日米同盟が重要」という論調で報じている。日米同盟とはすなわち、日米軍事同盟のことだ。対中国戦略の一環として日本列島の米軍基地化は一層、進み、思いやり予算どころではない多額の税金が「米軍再編」に注がれるだろう。

 さて、日本はどうするのか。今こそ、憲法9条を活かさない手はない。米国型武力外交とは真逆の日本型平和外交を確立するのである。民主党政権にとって、こんな絶好の機会はない。武器輸出三原則の見直しなどとバカなことを言わずに「自分たちは自民党政権とは違う。憲法に基づき仲裁外交を目指す」と宣言べきだ。菅直人首相に言いたい。もっと市民を信頼しなさい。あなたが平和外交に立ち上がれば、多くの人間がともに立ち上がり、支えますよ。(2010/12/2)