きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

[この国のゆくえ3…未曾有の危機を前に指揮者がだれかわからない]

<北村肇の「多角多面」(22)>

 東日本大震災で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

 天災は避けようがない。だが、人災は人間の知恵や努力で防ぐことができる。福島原発事故は、「政災」であり「官災」であり「業災」だ。政府も官僚も財界も、原発に対しあらゆる面で甘すぎた。未曾有の大震災によってそれが露呈した。政府や東京電力のしどろもどろの会見を聞きながら、「まだ何か隠蔽する気か」と、わきおこる怒りを抑えられない。

 ただ、この場で政府や東京電力の批判を展開する気はない。重要なのは、「これからどうするのか」だ。菅直人首相にまず頼みたいのは、「指揮命令系統の確立」「情報の一元化と整理」である。いまのところ、誰が指揮者なのかさっぱりわからない。最高責任者が首相なのは当然だ。しかし、それだけではどうしようもない。たとえば、「原発事故に関しては枝野幸男官房長官、救援体制は○○大臣、電力不足問題は△△大臣が責任者」などと明確にし、その人たちが明瞭な言葉で逐次、会見するだけでもかなり違う。

 責任者の明確化にもつながるが、情報発信がひどすぎる。整理も一元化もされていない。突発的な事案の会見とは別に、最低限、「現在、わかっていること」「わからないこと」「実施している対策」「実施を検討している対策」などの枠組みを決め、その中に必要な情報をあてはめ、1時間ごとに提供するくらいのことができないものか。

 民主党の岡田克也幹事長にも望みたい。与党責任者として、野党との連携に向け市民にわかる形で動いてほしい。阪神大震災など過去の大災害に関わった自民党議員はたくさんいる。その人たちの知恵も借りるべきだ。もちろん、野党も当面は「政争」を棚上げにしなくてはならない。国会を挙げて取り組んでいるという姿勢をはっきりと見せることが、市民の安心感につながるはずだ。

 歴史的な大地震により浮き彫りになったことが、もうひとつある。この国では、さまざまな意味で“のりしろ”が失せていたという現実だ。災害をある程度、吸収できるだけの余裕がない。「自然を破壊したことによるつけ」に限らない。心の面でも同様だ。阪神大震災のときも、被災地の方だけではなく、多くの市民が軽いうつ状態になったような日々がしばらく続いた。当時より“のりしろ”のない「いま」はさらに深刻だ。

 考えようによっては、これだけの危機的状況を超えられるかどうかで、この国のゆくえが見えてくるのだろう。(2011/3/18)