[この国のゆくえ9…私たちは孤独ではない]
2011年4月27日6:11PM|カテゴリー:多角多面(発行人コラム)|北村 肇
<北村肇の「多角多面」(28)>
小出裕章さんの『隠される原子力 核の真実』(創史社)に岡部伊都子さんの詩が紹介されていた。
『売ったらあかん』
友達を 売ったらあかん 学問を 売ったらあかん
子どもらを 売ったらあかん 秘密を 売ったらあかん
まごころを 売ったらあかん こころざしを 売ったらあかん
本心を 売ったらあかん 大自然を 売ったらあかん
情愛を 売ったらあかん いのちを 売ったらあかん
信仰を 売ったらあかん 自分を 売ったらあかん
教育を 売ったらあかん 自分を 売ったらあかん
岡部さんが「反戦」の思いを込めてつくった詩は、そのまま「反原発」につながる。推進派の政府や、学者や、電力会社は売った。「まごころ」を、「本心」を、「学問」を、「秘密」を、「こころざし」を、「大自然」を、「いのち」を、そして「自分」を。
原発の危険性を知りながら廃炉に追い込むことのできなかった、私を含む多くの人間もまた、結果として、「友達」を、「子どもら」を、「情愛」を、「いのち」を売った。だが、私たちが推進派と異なるのは、深い自省とともに「今度こそ、絶対にすべての原発を廃炉に追い込む」と立ち上がったことだ。「自分」を売らなかった矜恃を糧に、できることは何でもやろうと決意を固めたことだ。
井上ひさしさんの言葉も引用したい。『日本語教室』(新潮新書)の一節。
「日本の悪いところを指摘しながら、それをなんとか乗り越えようとしている人たちがたくさんいます。私もその端っこにいたいと思っていますが、そういう人たちは売国奴と言われています。でも、その人たちこそ、実は真の愛国者ではないのでしょうか。完璧な国などありません。早く間違いに気がついて、自分の力で乗り越えていくことにしか未来はない……」
自分の力で乗り越えるしかない。でも私たちは孤独ではない。先人の言葉が、暗く細い道にうっすらと、しかし力強い光を放つ。そして、同じ光を頼りに、手を携え、心を一つにして進む仲間が隣にいる。私たちは孤独ではない。(2011/4/29)