[この国のゆくえ17……歴史をつくるのは市民の運動だ]
2011年6月29日4:28PM|カテゴリー:多角多面(発行人コラム)|北村 肇
「原子力の父」と呼ばれた正力松太郎氏。弱小新聞だった『読売新聞』を買い取り、『朝日新聞』、『毎日新聞』と並ぶ三大紙に巨大化させ、さらには『日本テレビ』を立ち上げたメディア王でもある。彼の目指すところは総理の椅子にあった。米国CIA(中央情報局)との深い関係を使い、「原子力発電」をそのための“道具”にしようと目論んだのである。
一方、米国は、日本を“反共の砦”とするため核兵器持ち込みを急いでいた。そのための心理戦――「原子力の平和利用」をアピールすることで「核アレルギー」を払拭する――に躍起だった。ところが、1954年に「第五福竜丸事件」が発生、ビキニ環礁の水爆実験で被曝した無線長の久保山愛吉氏が亡くなったことで、日本中に反核運動が広まった。「この流れを断ち切るにはメディア利用が欠かせない」と考えた米国は、正力氏との関係を強化。かくして、『読売』は「原子力の平和利用」キャンペーンに一層、力を注いだ。
上述の史実は、米国の機密文書開示により明らかになったことだ。結局、『読売』を使った米国の心理戦は大成功を収め、原子力発電は「夢のエネルギー」としてもてはやされ、市民の間に定着していく。膨大な予算が注ぎ込まれることで、原発は“カネのなる木”となり、政・官・財だけではなく、原発立地自治体をも巻き込んでいく。そして、『読売』にとどまらず他のメディアも取り込まれていき、ついには足抜けできないところまでズブズブになっていったのだ。
「3.11」は、これらの闇の歴史を改めて引っ張り出した。米国が、日本人のヒロシマ・ナガサキ体験を薄めるために、「毒(原発)をもって「毒」(核)を制す」戦略をもちいたことも、多くの人が知ることになった。それはまた、日本が依然として米国の占領下にあるという現実をも浮き彫りにした。
いま、米国や日本政府が恐れているのは、戦後一貫して続いてきた「支配構造」が白日の下にさらされ、崩壊することだ。政府だけではない。財界やマスコミの一部も同様の危機感を抱いているはずだ。彼らも、米国を中心にした支配構造の一翼を担い、甘い蜜を吸ってきたからである。
第五福竜丸事件の後、東京・杉並区の女性たちを中心に始まった反核運動は、前述のように、巨大なうねりとなり3000万人の署名を集めた。これにより、米国が「無条件の核持ち込み」をあきらめたのも一方の史実だ。市民が立ち上がれば社会は動く。支配構造を変えられる。少数の権力者だけに歴史をつくらせてはいけない。(2011/7/1)