市民が覚醒した以上、脱原発への流れは逆行しない
2012年5月9日5:42PM|カテゴリー:多角多面(発行人コラム)|北村 肇
<北村肇の「多角多面」(76)>
市民が覚醒した以上、脱原発への流れは逆行しない
ちょっぴり偉そうに言うと、ジャーナリストは気象予報士ならぬ「事象予報士」でなくてはならない。どんなテーマでも取材を重ねていくと「未来」の見えることがある。事実の積み重ねにより真実が浮き彫りになり、それが将来予測につながるのだ。
かれこれ10年以上前、『サンデー毎日』編集長時代に一風変わった連載をした。書き手はルポライターの明石昇二郎さん。「浜岡原発が大地震で崩壊し、日本は壊滅状態に」というストーリーだった。かなりの部分は実際の取材やデータに基づいていたので、ノンフィクションといってもおかしくない。でも、現実に浜岡原発が爆発したわけではないから、小説は小説だ。
予想通り、連載が始まるとともに中部電力の面々が抗議にやってきた。「科学的でない」「いたずらに恐怖をあおっている」「中部電力をつぶす気か」――。次々と出てくる怒りの言葉。「いやあ、そもそも小説ですから」。のらりくらりの私。毎週、毎週、数人の社員が訪れては文句を言いまくる。のれんに腕押しの私。その繰り返しだった。
明石さんは原発取材の第一人者。原稿はいい加減な未来小説とは違う。地震発生から原発崩壊までの流れには空恐ろしくなるほどのリアリティがあった。私も多少、反原発運動に関わっていたので、中部電力が焦るのはよくわかった。作品には説得力があった。だから、何としてもつぶしたかったのだろう。
結果として、ジャーナリスト・明石昇二郎の「事象予報」は当たった。原発は浜岡ではなく福島だったが、それは本質的な問題ではない。「地震が引き起こす原発崩壊」というシミュレーションが現実になってしまったのだ。ちなみにこの連載は弊社刊行の『原発崩壊』に収録してある。
その明石さんが「3.11」以降、何を考え、どう動いたのか。ドキュメントを中心にした『刑事告発 東京電力』を先月、弊社から刊行した。刑事事件になるとの「予報」はどうなるのか。読んでいただければ、答えはおわかりになると思う。
5月5日、泊原発の定期点検入りで国内の原発はすべて運転を停止した。だが安心はできない。政府も経済界もしゃかりきになって再稼働に向かって動き出すだろう。それを見越した上での私の「予報」は「脱原発の流れは止めようにない」。なぜなら大多数の市民は覚醒し、一方「権力者」はその現実に気づいていないからだ。(2012/5/11)