<北村肇の「多角多面」(93)>
目が点になる。安倍晋三、石破茂、石原伸晃……自民党総裁選の有力候補はことごとくタカ派と言われてきた面々だ。今回の総裁は次期首相となる可能性が濃厚。だれがなっても直ちに「集団的自衛権容認」方針を出すだろうし、「憲法改定(9条改定)」が政治日程に上がるのも確実だ。オスプレイは日本上空を我が物顔に飛行し、TPP(環太平洋経済連携協定)に加わるのは間違いない。「原発ゼロの日」も限りなく遠ざかる。まだまだあるが、これ以上、書き連ねては神経がおかしくなる。
この総裁選に背後から影響力を発揮しているのが橋下徹大阪市長だ。彼もまた「9条が日本を悪くしている」といった趣旨の発言を平然とするタイプ。万が一、安倍氏と組むようなことがあれば、とんでもなく右旋回になりかねない。当初は米国との距離感が見えにくかったが、最近はTPPに対する前のめりの姿勢が目立つ。親米右派の一人には違いない。
一方の民主党。こちらも目が点だ。支持率20%を割り込んだ野田首相の再選が有力とは、はてなマークが100個あっても足りない。野田氏で選挙を勝てると思っている民主党議員は多分ゼロだろう。3年前の総選挙で民主党を支持した有権者の意思は「自民党政治へのノー」だった。ところが、野田政権はあれよあれよという間に、自民党よりも自民党らしい政策へと舵を切った。このままでは、支持率が10%台になることもありうる。それでも野田代表を選挙の顔にするのは、もはや自殺行為としかいいようがない。
ひょっとしたら、野田氏やその周辺の目的は民主党をつぶすことだったのではないか。そう考えればすべてのつじつまがあう。正確にいえば「民主党的なるもの=政治主導、富の公平分配、対米従属外交の見直し」を徹底的に破壊すること。その中心が霞ヶ関官僚であることは容易に推測できる。官僚のシナリオを大胆に推測すれば――市民・国民の反発が予想される案件は野田政権主導で片をつける。自民党は水面下でそれを下支えする。解散・総選挙後の民主党の「顔」は人気のない野田氏のままにする。それにより自民党政権の誕生は確実。あとは、かつてのような官僚中心の永田町に戻す。
孫崎享さんの近著『戦後史の正体』によれば、米国は首相の首のすげ替えだけではなく、官僚の人事にまで手を突っ込むという。民主党政権誕生以降、ここまで米国の思惑通りにことが進むさまを見せつけられると、日本が米国の属国である実態を実感する。
冷厳に現実をみれば、心ある政治家、社会変革を目指す多くの市民が手をつなぎ、次の次の総選挙への道筋をいまからつくり上げていくしかないだろう。(2012/9/14)