きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

エンターテインメント的言論規制のススメ方

▼ 年末といえば、空手家・佐竹雅昭の暴露本『まっすぐに蹴る』を読み、感銘を受けた。佐竹は今のK1人気を築いた日本格闘技界草創期の立て役者の一人だ。本のタイトルがいいですね。基本をしっかりと習熟することこそが、道を極めるものにとって永遠のテーマであるということなのだろう。晩年、テレビに出演していた大山培達が「私ね、拳をね、握るときにいまだにどうやって握るか悩むんですね」(「リングの魂」?)と答えていたのが、いまだに印象に残っている。
実際読んでみると、佐竹の本は新聞の書評で紹介されていたよりも、石井館長らへの批判はかなり遠慮気味だった。一方で、大けがしたこと、生々しい興行の実体、結婚するつもりがないこと、マスコミを信用していないという発言など、「怪獣王子」の意外なほど誠実でまっすぐな声を聞くことができた。

▼ そういえば、米国カントリー・ミュージックの大御所、ウイリー・ネルソン(70歳)が、ブッシュの「イラク侵略」を批判する曲「What Ever Happened to Peace on Earth」(「地球の平和に何が起きたんだ」)を発表した。1月3日、「平和省」などを提唱する平和・環境派の大統領候補(民主党)、デニス・クシニッチ下院議員(56歳、注1)の演説会で初演奏されたという。

曲は「人の命は石油でどれくらいの価値を持つというんだ」「嘘つきの言葉にどれほどの価値がある」などと米政権を批判する歌詞を基調とする反戦歌である。昨年のクリスマスの日に、ニュースを見ていたウィリー・ネルソンはこの曲を書き上げたという。ネルソン氏もロイター通信などのインタビューに「論争は歓迎」と答えている。

ちなみに、ネルソン氏はベトナム戦争時には反戦歌「ジミーズ・ロード」を発売した。これは次のサイトから無料でダウンロードできる。
http://www.smn.com/peace/

昨年は、同じく人気カントリー・グループ、ディクシー・チックが反戦歌を唱い、大バッシングを受けた。自曲が全米で放送中止になってしまったのだ。
だが、その背後には、「イマジン」なども放送中止にした全米最大手ラジオグループ「クリアチャンネル」がいる(注1)。

米国ではメディアの民営化と統合が進み、複数の局を所有する大資本が出てきているという。大手の路線は、硬派よりも軟派、エンターテインメント重視で体制批判報道には厳しい。ちょっとハねてしまったジャーナリストやDJが次々に解雇されている。昨年も、話題になった反戦黒人女性議員バーバラ・リーをゲストに招いたデイブ・クックが解雇されたことなどは、各メディアでも既報ずみだ。
クリアチャンネルは1200局をカバーし、第2位のラジオグループはクリアチャンネルの5分の1の規模だというから、その大きさは群を抜いている。
そのクリアチャンネルが放送禁止にしたわけだ。ミュージシャンにとって、ラジオでの自曲の放送禁止という効果は大きい。「イマジン」ですら放送禁止にされたわけだ。いいみせしめとして自粛効果を持つ。

とはいえ、日本の某所にいる私は年末年始はテレビで垂れ流されるエンターテインメントに毒されていた。朝から酒を飲み、笑い番組を見て「うーん、今年はちょっとしたお笑い元年じゃないの? いよいよ、きたねっ」と、妙な感慨に浸り呆ける始末(飲み過ぎで2回も胃を壊した)。
しかし、ちょっと待て。お笑い、グルメ、温泉などバラエティー(エンターテインメント?)ばかりだったということは、社会的な硬派な番組が少なかったということの裏返しでしょ。こ、これもクリアチャンネルの仕業か! な~んて、それはありえない、ありえない、にゃにゃにゃい!(フジテレビ系「はねるのトびら」参照)
そういえば、バラエティーで有名な某テレビは、報道や政治番組ではいつも現政権寄りだなあ。でもいいか。この局は報道系よりもバラエティー番組のほうが社会風刺が効いているからな。直球で社会批判が大衆に届かなくなれば、チャップリンのように笑いに毒をまぶしたり、ラリー・フリントのようにセックスで偽善を汚すことが有効でしょうからね)。

しかしまあ、正月だから硬い話はよそうよということなんだろうけれど、そんな軟弱ぶりも日本に平和があってこその話だ。そろそろ「戦争批判への批判」すら出てきそうな世の中で、今のメディアの流れはまずい。間違いない。(byナガイ)
このままだとメディアはハードに自縄自縛をすすめ、ドMぶりをさらけ出しかねません。

ちなみに、付き合いのあるジャーナリストの方々からもらった年賀状も、「今年の日本はますます危機的だ」という趣旨のものがホントウに多かったですしね。

今、流れているものもそうだけど、流れていないものを見ていこう。

(注1)クシニッチが大統領に当選する可能性は低いが、多くの平和団体にサポートされているようだ。ウイリー・ネルソンが

(注2)ホット・ワイアードのジェフ・パールスタイン氏の記事が参考になった。
http://www.hotwired.co.jp/matrix/0301/003/index.html
ちなみに日本でも『ワイアード(wired)』日本版が発売されていたのだが98年9月に無念の休刊。雑誌はレイアウトにかなり凝っていて、いまでも数冊が私の手元に残っている。銀ピカに鉄腕アトムの表紙の号は、「ジャケット買い」をしてしまった。編集部の雑誌マニアのHにも「これ、くれっ!」と迫られたものだ。
(平井康嗣)