きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

異種格闘技戦ではない「曙」戦

大晦日にK―1のリングで曙太郎(34歳)が、ボブ・サップ(29歳)と対決する。

そこで、K―1グランプリ第1回興行を代々木体育館に見に行った格闘技史の証人(そんなたいそうなもんでもないか)として、少しだべらせてほしい。

             格闘家になる元横綱

大相撲の元横綱であり、親方が格闘技のリングに上がる。これは相撲界にとってもニュースだろう。

92年にも元横綱がリングに上がったことがあり、ぼくはリアルタイムで観た。
北尾光司が高田延彦(現・高田道場)とリングで闘ったのだ(北尾はその前から、独自の道場を作り他団体と闘っていた)。
北尾選手の場合、相撲界から追放されたというダーティー・イメージがあったため、相撲界を背負っているという印象は薄かった(注1)。つまり北尾が負けたから、相撲は弱いということはならなかった。
とはいえ、北尾×高田戦は異種格闘義戦の歴史に燦然と刻まれた名勝負だった。

曙の場合はどうだろう。追放されたわけではないし、北尾と何かニュアンスが違う。
かつてのわくわくさせる「異種格闘技」戦という独特の空気がないのである。
プライドやらK―1などのような、どんな選手でも飲み込む土俵ができ、今回の試合も興行の一つであることが試合のインパクトを薄めているのだろうか。
だが、曙が負けると、横綱ってこんなものと思われかねない部分はある気がするが、どうだろうか。

ちなみに、11回の優勝経験を持つ元横綱(第64代)曙の引退理由は、ひざの故障という(注2)。

かたやボブ・サップは、アメリカン・フットボール選手出身だ。
選手時代に両足のアキレス腱を故障して、プロレスに転向した。そしてPRIDE参戦で日本デビュー(注3)である。

とはいえ、強かったとはいえ、やはり故障して引退したアスリート同士。今や、金は土俵に埋まっているのではなく、リングで埋まっているということか。

これが興業のメインイベントになるのが気になってしまう。

前田日明(まえだ あきら)が現役なら、曙は“当たり前田のローキック”で粉砕は間違いないだろう。下馬評も、「曙弱すぎる」が主流だろう。当日、ボブ・サップがローキックを使わなければ、この試合はセメントじゃないですな。

それに曙にグローブを着用させることはつまらないと思わないのだろうか。
関取は、つっぱりと張り手である。拳は握らない。スポーツ紙などによれば、曙もようやく握れるようなってきたと言っているレベルだ。
オープン・フィンガー・グローブ着用で、かつてリングスで闘った田村潔司のように掌底で闘って貰った方がどれだけ面白いか。

            現役の横綱が「異種格闘技」

また話を戻すけど、大相撲「最強」の象徴、「横綱」の他流試合は、格闘技ファンの夢のカードの一つといえるだろう。
かつては格闘技ファンの間では、どの格闘技が最強かよく議論された。しかし、大相撲は格闘技として軽視、いや度外視されていたような気がする。

だが、ぼくはある漫画をきっかけに関取が最強を賭けて勝負する異種格闘技を観たくなったことがある。
その漫画とは『グラップラー刃牙』(『少年チャンピオン』で連載中)だ。
今回のように土俵の残り香を持つ元横綱が参戦するだけで意味がある。だが、それ以上の興奮はすでにこの漫画で味わってしまった気がする。

『刃牙』では、貴乃花をモデルにした横綱・金龍山を登場させた。東京ドームの地下にある格闘トーナメントに参戦させたのだ。
プロレスから、ボクシングから、ヤンキーまで各界の最強を自負する人物を登場させ、延々闘いを繰り広げた。おそらく、このときに格闘技ファンは大相撲の強さと品格にがぶり酔っただろう。

そして今、曙太郎×ボブ・サップ、か……。
もし願わくば、貴乃花光司が「自分も出たくなったっす」なんて言って、参戦表明してほしいものだ。

(注1)
高田延彦 対 北尾光司戦は1ラウンドKOで高田の勝利。右ハイキック一発だった。
あの1戦は伝説であり、私も『格闘技通信』についていたポスターを部屋に張っていたものだ。いまや引退し、桜庭敦史などを抱える高田道場を構える。あの1戦は高田、絶頂期の試合だったことに間違いない。ベストは、400戦無敗?のヒクソン・グレイシー(97年、98年)とのバトルかっ!
高田道場公式HP http://www.takada-dojo.com/top.html
(注2)
曙太郎選手は、かつて秋葉原でみかけたと思う。電気の街から、電気とおたくの街へ変身した秋葉原は、いま再開発の真っ只中だ。両国と秋葉原は、浅草橋をはさんでJRで二駅である。
秋葉原駅前で立体駐車場になっている場所は、以前は青果市場だった。数年前は広い空き地でバスケットゴールがあり、スケーターなども結構いた。そこに、konisikiやら、武蔵丸などがママチャリに乗ってきて10人くらいでバスケットをしに来て、無邪気に遊んでいた。
(注3)
PRIDE参戦以降、ボブ・サップは確かに強かった。2002年大晦日、猪木祭りでの高山善廣とのドツキ合いの挙げ句のサブミッションは、感動を受けた。高山も負けたといえ、向こう傷で倒れ、かなり男を上げたものだ。だが、12月17日発売のスポーツ新聞によると、大晦日の猪木祭りでの高山善広×ミルコ・クロコップ戦が中止になるという。また、ボブ・サップを観ていると、かつてのリングス・オランダのディック・フライを思い出す。ディック・フライも身体が大きくケンカ上等のタイプ。仕事はディスコの用心棒といわれていた。

<後記>
ボクシングファンにニュース! 1月9日から、本誌でボクシング日本ウエルター級チャンピオン・小林秀一さんが、本にまつわるコラムを連載するという(ぼくの担当ではないが)。小林さんは東京工業大学を卒業したため、国立大学ボクサーと書かれている。先日、打ち合わせのため、編集部を訪れた小林選手といろいろ話す機会があった。「うーん、ジャブを使う意味がわかりませねぇ。ぼくは右アッパーからいっちゃたりしますね」。彼の静かな自信、そして、じわりとにじむ狂気(ウソ)をはらんだ合理的なボクシング・スタイルについての話はひじょーに面白かった。ちなみに、小林選手の実家は代々豆腐屋さん。小林選手はいまは4代目を継いでいるそうだ。
(平井康嗣)