きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

首都高逆走で死んだエミーの話

 11月13日の『読売新聞』夕刊の一面トップが「高速道逆走 年1000件」。

 警察庁によれば昨年、逆走による人身事故は35件起きており、その4割が65歳以上だったという。

 数年前に死んだ私のオヤジも、高速道で逆走被害にあったことがある。

 この日、オヤジは自分の誕生日で千葉でゴルフコンペをした帰りだった。ゴルフと麻雀が趣味だった。

 夜、東関東自動車道を使い、帰宅に途についていたオヤジは暗闇の中から迫り来る逆走車に驚き(そりゃそうだ)、霧中でハンドルを切り、側壁に衝突したという。車はそのままひっくりかえって仰向け。もちろん車は廃車。犯人はわからず仕舞。不幸中の幸いで、おやじと同乗者の友人は無傷だった。奇跡である。

 奇しくもこの日、飼犬のエミーがぽっくり死んだ。

 心臓発作かなにかだったらしい。毛が短いチャウチャウのような風貌の赤茶色の雑種(最近は「ミックス」とも言うらしい)だった。

 このエミーの死をオヤジは独自に解釈した。

「エミーはおれの身代わりに死んだ。あまり役に立たない犬だったが、最後に恩返しをしたな」

 本人はまったく自覚をしていない暴言を吐いた挙げ句、エミーの死を自身の強運話の補強材料とした。オヤジは町工場を経営していたが、この手の人物はおおむね自慢話が大好きである。

 そうしてオチのついた事故生還物語を死ぬまでいろいろな人物に喜んで話していた。
ネタである。すべらないナントカである。

 たしかにエミーはいくら叱っても無駄吠えをやめず、しょっちゅうオヤジからにゲンコツをくらっていた。ゲンコツ、ストレスたまる、吠える、ゲンコツと悪循環が繰りかえされた結果なのか、普段からおびえた目をするようになっていた。

 もちろん、オヤジにはまったくなついていなかった。

 だが、オヤジの「身代わり」として死んだことにより、”二階級特進”を果たした。忠犬として、わが家の庭に埋葬された。

 鯉だとか犬だとか、ペットが死んだ場合同様、墓堀人は俺だった。オヤジはエミーがどこに埋まっているのかすら知らなかったにちがいない。

 ともかく、逆走犯がだれであるとかネガティブにオヤジが復讐に燃え、呪う姿をついに見なかったことは子として幸いである。単にそういうことが面倒くさかったのだろうが。保険も下りたらしく、むしろオヤジはよりハイパワーの新車に乗りかえていたくらいだ。

 俺は昨日の新聞を見るまで事故発生場所が千葉県のことだし、ヤンキーか走り屋が度胸試しのレースでもしていたのかと思っていたが、もしかしら犯人は老人だったのかもしれない。

 おそらくそういう老人は自分が逆走をして、事故を巻き起こしたことすら気づかずに今も生きているのだろう。

 それよりも、死んだエミーに死んだ理由を聞きたい。

 オヤジの身代わりとなって死んだことになっているけど、それでいいのか、と。

 ちなみに生き物たちの死体が庭に埋まっている家は、今は別の人が住んでいます。合掌。