返金・訂正・謝罪の「美しい国」
2007年9月2日5:00PM|カテゴリー:シジフォスの希望|Kataoka
シジフォスの希望(7)
この国では、金を盗んでも返して謝れば、罪に問われず許されるようだ。全国の泥棒や詐欺を職とする人たちにとってこれ以上ないほどの朗報であるが、ここで問題とするのは国の規範となるべき政治家の身の処し方のことだ。なにしろ、事務所経費の多重申告や農業共済の架空請求など詐欺的で悪質なやり口が明らかになり、国民の血税を事実上盗んだとしても、返金して訂正し謝罪すれば逮捕されず書類送検もされず、仕事(議員)を辞めなくてもよいという、実におおらかな「美しい国」なのである。
刑法第246条(詐欺罪)にこうある。
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
同じく刑法第235条(窃盗罪) 。
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
そしてこれら(詐欺罪と窃盗罪)は「未遂」も罰せられる。
未遂どころか、いったん確実にその懐に入れたにもかかわらず、たまたま大臣などになってばれてしまったら「事務的なミスで申し訳ない。すでに返済し、報告を訂正してあります」などとしゃあしゃあと言う。「返金・訂正・謝罪」の3点セットで罪にも問われず許される。この国の順法精神と倫理観の破壊に率先して多大な貢献をしているセンセイ方が、そのまま「国民の代表」に居座ることに誰も疑問も怒りも噴出させない、実に「美しい国」ではないか。
大敗した参院選挙を経て、「再チャレンジ」というのが自分のためのスローガンだったことが明らかになってしまった安倍晋三首相だが、もう一つのスローガンである「教育再生」も聞いて呆れる。嘘を言ったり、人を騙したり、裏でこそこそとカネをせしめるといった最悪の道徳教育を、子どもたちの前で、任命した大臣たちが次々と実行しているのだから、さぞかしこの国の教育は「美しい」ものになるだろう。安倍首相自身が「非更新」という国民の審判を無視している中で、教員免許の更新制度をあれこれ言う資格があるのか。
これらの茶番的な喜劇はしかし、市民・国民にとっては底知れぬ悲劇なのだが、それでも政権与党を支持する人たちの順法精神と倫理観は一体どうなっているのか。この国をダメにしているのは実は、表舞台で醜悪な演技を見せている政治家たちではなく、無自覚かつ無責任にもそうした政治家をかついだ支持者たちだということを、私たちはそろそろ気づくべきではないか。 (片岡 伸行)
(2007年9月2日)