きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

絨毯(じゅうたん)を洗う

 関東地方が梅雨明けした7月20日、絨毯(じゅうたん)を洗った。学生時代にイスタンブールを旅行したとき買った絨毯だ。こまめに干したり、掃除機をかけたりはしていたが、洗うのは初めて。知人に「簡単だよ」と言われ、その気になった。

 大きさは、畳より1回り大きい程度。風呂桶に張った水につけようとするが、三つ折りぐらいにしないと入りきらない。軽く押し洗いしただけなのに、水がじわりと黒くなった。水を抜いてから、いざ洗剤を入れようとして困った。はたして普通の洗剤でよいのか、羊毛用の洗剤でないと痛んでしまうのか。インターネットを使って検索するものの、洗剤の種類まで載っているホームページは見つからなかった。

 旅行したとき、イスタンブールの絨毯店では普通の洗剤で洗うと聞いた気もするが、すでに10数年もたっているので確信が持てない。数分迷って、無難に羊毛用を使うことにする。濯いでいるにもかかわらず、風呂桶の水はすぐ黒くなった。細かいほこりや、髪の毛などもかなり浮いてくる。やはり掃除機では、取りきれない汚れがあるのだ。

 そういえば、絨毯の選び方もイスタンブールで教わった。旧市街の中心部にある絨毯店が日本人旅行者のたまり場になっていて、ただでお茶を出してくれる。器は、トルコ独特の真ん中がくびれたガラス製を使う。私は「エルマ・チャイ」というリンゴのお茶をよく飲ませてもらった。《本物の草木染めは天然素材だから染めにムラが出る。化学染料で染めた糸を使った絨毯は色ムラがない》《羊毛100%かどうかは燃やして確かめる。絨毯の表面をこすって出る毛屑に火をつけて、ばっと燃えたら化学繊維。本物は軽く焦げるだけで燃え広がらない》などの知識は、お茶を飲みながら、片言混じりの日本語を話す店主に教えてもらった。

 絨毯洗いは続く。最初は手で表面をさすっていたが、浴槽洗い用のブラシを使うことにする。濯ぐために浴槽の床に広げ、シャワーをかけながらブラシでていねいにこする。はねる水と汗でTシャツや下着がびしょびしょだが、気にしていられない。水を切ろうと持ち上げたが、かなり重い。浴槽の壁に押しつけるようにして支えた。そのまま3分ほど耐え、これで最後の濯ぎにしようと思って浴槽につけたら、水がまた黒くなる。きりがない。思い切って足で踏みつけてみると汚れがさらに出た。結局あと3回ほど、床での水洗いと、浴槽につける濯ぎを繰り返す。ベランダに干すまでに1時間以上かかった。

「夜濯のしぼりし水の美しく 中村汀女」とは、いかないものだ。ちなみに「夜濯(よすすぎ)」は、夏の季語。汗まみれになった肌着や衣類を夜涼しいうちに洗って干しておくことをいう。真っ昼間に絨毯を力を込めて洗うのとは、風情が違うから致し方ないことではある……。

 実は、絨毯はもう1枚ある。今回洗ったのは最近つくられた絨毯だが、それよりもさらに大きいペルシャ絨毯(約80年ぐらい前の作)があるのだ。別の友人には「クリーニングに出せばいいじゃない」と言われたが、来週は、この大物にも挑むつもりでいる。