きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

「東海村で桜に異変」その後

 本誌460号(5月23日)で掲載した「東海村で桜に異変」(写真・文、金瀬胖)の記事がさまざまな反響を呼んでいます。桜の花びらは通常5枚ですが、花びらが6枚になったり、雄しべが花びらに変形して垂れ下がったりした写真が衝撃的だったからでしょう。

 興味深く読みましたという感想のほか、462号(6月6日)の投書欄には「できれば数値的なデータを入れてほしい」という要望が寄せられました。おそらくデータとは、主な核施設の配置と異変が起きている桜の分布のことを指していると思います。特に気になるのは、臨界事故を起こしたジェー・シー・オー(JCO)東海事業所の距離と、桜の異変率との関係です。

 桜の花を詳細に調査して1本あたりの桜の花の異変率を計算する。そして、JCO東海事業所と近いほど、その異変率が高いのであれば、JCOの臨界事故で大量に放出された中性子線との関係がより疑われることとなります。遺伝子配列などを乱して奇形を生み出す作用がある中性子線の影響は、発生源であったJCO東海事業所に近いほど強いからです。

 ただ、今回はそこまでの詳しいデータはありませんでした。では、原因を特定できるデータが得られるまで掲載を待つべきだったのでしょうか。編集者として、まったく迷わなかったと言えば嘘になります。「風評被害」を起こしてはいけないからです。

 でも異変という、いまそこにある現象を無視しては、さらなる被害拡大を生む恐れすらあります。核施設は村内でいまも稼働しているからです。また、村全域の調査などは、多くの人手を必要とするため、むしろ村や県など自治体の責務なのではないでしょうか。

 だからこそ、放射線と異変の関係を断定しないよう、筆者も記事のまとめとして次のように書きました。

《美しい花の乱れた姿を撮るのは辛い。現段階では、花の異変の原因を核施設が放つ放射線と断定できたわけではない。ただ、そうでないという断定もできない。核施設の周辺、特にJCOの周辺での異変が顕著だからだ。そして、この異変は遺伝子の傷として次代に伝えられる。この「花の伝言」は伝える義務があると思う》

 いたずらに不安をあおるのではなく、冷静に事実を伝える記事を今後とも掲載したいと考えています。