“大本営報道”と各社アンケート
2004年2月13日9:00AM|カテゴリー:風に吹かれて|伊田浩之
『週刊金曜日』2月13日号「大マスコミが自衛隊に提出した申請書の中身」を書くために、主なマスコミに緊急アンケートを行ないました。ファクス送付は2月5日。回答期限は6日〈金〉、それが無理な場合は9日〈月〉正午でお願いしました。ファクスを送った全社から回答がありました。テレビ朝日だけは電話による回答で、他の社はすべてファクスをいただきました。
本誌の質問と、各社の回答の全文を掲載します。各社の考え方の相違や、防衛庁とのやりとりが浮かび上がっています。
なお、防衛庁には「イラク報道をめぐる防衛庁の基本的な考え、立場」などを聞きたいと申し入れましたが、「報道各社と協議している最中なので、取材は後日にしてほしい」と電話で断られました。
【マスコミ各社への質問】
1)イラク国内での自衛隊活動の取材について陸上幕僚監部が1月30日に提示した、「暫定立ち入り取材申請書」を提出しましたか。また、提出はいつですか。
2)陸上幕僚監部が提示した遵守事項には「報道自粛」や「報道に先立ってその取り扱いにつき現地部隊等と協議し、その結果に従います」など、「知る権利」や「表現の自由」を危うくし、「検閲」に該当する項目がありますが、その点についてどのように考えますか。
3)30日に陸上幕僚監部が提示した「暫定立ち入り取材申請書」のほかに、同様な取材申請書を出す要求は自衛隊からありましたでしょうか。また、その要求に対してどのように対応されましたでしょうか。
【マスコミ各社の回答】
●新聞社
《朝日新聞》
1)提出していません。未定です。
2)イラクでの自衛隊の活動は国民の重大関心事であり、現地で派遣部隊のブリーフィングなどを取材し、報道することは重要だと考えています。ただ、ご指摘の点を含め、規制内容について何点か陸上幕僚監部に確認しているところです。
3)ありません。
《毎日新聞》
1)2月3日に提出しました。
2)今回の申請は、当面の暫定措置であること、取材制限を主旨としたものではないことを、防衛庁に確認したうえで出しました。現在、防衛庁と防衛記者会との間で、正式な取材証発行に向けて話し合いが続けられており、協議の中で改善を図りたいと考えています。
3)弊社としては特に承知しておりません。
《読売新聞東京本社》
1)2月3日に提出しました。
2)「検閲」とは考えていません。派遣隊員、取材者双方の安全を確保するために必要なものと理解しています。取材報道に関する制限については、防衛庁に十分ただし、必要最小限のやむを得ない範囲であることを確認しています。これをもって不当に取材が制限されるおそれはないと考えますが、万一不都合が生じた際には、報道機関としての使命を尊重して見直すよう求めていきます。
3)記者証を申請しました。
《産経新聞》
1)提出しました。
2)特殊な状況下における「当面の暫定措置」と理解していますが、自由取材を求めて現在交渉中です。
3)現段階では、そのような要求はありません。
《東京新聞》
1)「報道を制限しないこと」を条件に提出。2月初旬。
2)陸自、取材陣の安全は最優先すべき課題だが、同時に大本営発表になるような「検閲」行為は容認できない。
3)現時点ではなし。
●通信社
《共同通信》
1)2月3日に提出しました。
2)・自衛隊のイラク派遣の取材・報道に当たって、隊員の生命や安全を危険にさらすことのないよう十分な注意を払うことは、当然と考えています。
・しかし、防衛庁が提示した「暫定立ち入り取材申請書」には、報道することによって安全確保に影響するとは思えないような情報についても、報道の自粛を求めており、遺憾です。また、こうした取材・報道の条件が一方的な形で提示されたことも遺憾です。何を報道し、何を自粛するかは、基本的には報道機関が主体的に判断するものと考えています。
・ただ今回は、現在のサマワでの陸自取材が危険な状況下で行われていることや、陸自本隊のサマワ入りに合わせた記者証発行など、時間的な制約もあり、緊急避難的な措置として、申請しました。
・しかし、提出と同時に「正式な取材許可証への移行に向けて、十分な協議を行うこと」などを、陸幕監理部長あてに文書で申し入れました。
3)クウェートの空自取材であったようですが、途中で立ち消えになったと聞いています。
《時事通信》
「暫定立ち入り取材申請書」は2月3日に提出しました。
「遵守事項」には取材・報道内容を制限するものがあり、問題だと考えています。今後も、情報公開と報道の自由という観点から防衛庁側に働きかけていきたい。
●放送局
《NHK》
1)2月3日に提出した
2)自衛隊のイラクでの活動については克明に伝える必要があり、一方で、安全確保にも一定の配慮が必要だと考えている。その観点から、防衛庁側から示されている確認・遵守事項については、取材・報道の規制につながる内容を必要最小限とするよう強く申し入れた上で申請書を提出した。また、今回の確認事項等はあくまで暫定的なものであり、適正な取材ルールのあり方について防衛庁側と協議を重ねている。
《日本テレビ》
1)3日に一部を提出しました。(今後、残りを提出する予定)
2)「報道自粛」や、「報道に先立って……協議し……その結果に従います」の部分は、情報の自由な流れを規制しかねず、国民の知る権利に答えるための報道機関の使命を果たすことができなくなる懸念があると考えます。
3)「暫定……」に先立って、防衛庁から、別の「記者証」の申請についての案内もあり、こちらも申請しています。
《TBS》
1)3日夜に提出しました。
2)TBSは、「報道を自粛します」の部分などを削除することや遵守事項が適用されるのは立ち入り禁止区域であることをより明確化するなど、文書の修正を防衛庁に申し入れました。これに対し防衛庁は「修正はできない」と回答してきました。このためTBSは対応を協議した結果、今回の申請が当面の暫定的な措置であることを確認し、今後も防衛庁に「暫定立入取材員証」の性格について説明を求めてゆくことを決め、最終的に申請書を提出しました。
3)今回の暫定立入取材員証に先立って、1月下旬に防衛庁から別の取材証の申請を求められました。この際、1月9日に石破防衛庁長官らが報道各社に示した報道自粛の要請と同じ趣旨の文書が添えられていました。TBSを含め報道各社がこれに抗議したことから、その後、この文書は撤回されました。
《フジテレビ》
1)提出した。1月30日
2)防衛庁の配布した最初の文書にはそうした報道自粛の注意事項があったので強く抗議した。その結果、申請書提出の段階で防衛庁は、報道各社の抗議を受け入れ注意事項は削除した。
フジテレビは、「報道にあたってはイラクに派遣されている自衛隊員の安全に十分配慮するが、報道内容についてはフジテレビが、報道機関として自主的に判断する。」というのが基本的な立場だ。
3)自衛隊本隊の派遣にともなう現地取材については現在防衛庁と防衛記者会で協議中だ。
《テレビ朝日》(電話による回答)
示されている取材制限には多くの問題がありますが、あくまでも自衛隊の宿営地ができるまでの暫定的なものであることを確認の上で取材許可の申請を行ないました。
今回の取材ルールを既成事実にしないとの前提に立って、今後さらに取材制限については防衛庁サイドと交渉していくことにしています。
《テレビ東京》
テレビ東京は、現時点でサマワに自社の記者を派遣していないため陸自・防衛庁の要請などについて、具体的なアクションは起していません。