東郷和彦さんの靖国モラトリアム論
2006年8月4日9:00AM|カテゴリー:風に吹かれて|伊田浩之
今週号(8月4日号)では、東郷和彦さんのインタビュー記事を巻頭に掲載しました。東郷和彦さんは、靖国神社に合祀されているA級戦犯、東郷茂徳元外相の孫で、外務省欧亜局長を務めるなど外交の第一線に長くたってきました。祖父に対する思いはとても強いそうです。
その東郷さんが「首相の靖国参拝一時停止(モラトリアム)を宣言せよ」と、この時期に提言するのは、聞き手の佐高信・編集委員が本誌で述べているように大変重い意味を持っています。一部からの反発を覚悟の勇気ある行動だと思います。東郷さんは米国ニュージャージー州のプリンストン大学で教えていたため、モラトリアム提言は最初、米誌『ファー・イースタン・エコノミック・レヴュー』6月号(英文)に掲載されました。
国内では、8月1日発売の『月刊現代』(講談社)にインタビュー記事が載っています。本誌では、できるだけ早く東郷さんの考えを紹介したいと考え、米国から帰国されてすぐの7月29日にインタビューしましたが、『月刊現代』は米国プリンストンの自宅を訪れてインタビューしたそうです。
東郷さんのモラトリアム提言が重い意味を持っていることは、共同通信が7月30日夕方、『月刊現代』に載る内容をニュースとして配信し、さまざまな新聞に掲載されたことからも明らかです。そして、共同通信配信の記事をネットなどで読んだ人が東郷さんの提言に対する感想をブログで書き始めました。
「中・韓による内政干渉は許すべきではないが、経済界のことを考えると参拝は一時停止するのが良識的な行き方かもしれない」(30日午後8時35分、日時はブログの書き込み時刻、以下同)
「この東郷氏の「忖度」こそ、「日本人」らしいと思う」(30日午後11時59分)
「気高き魂を失わず、雌伏の時を知れということか。日本のあるべき姿勢を考えるならば、こういう意見が出ることの方が良いことなんじゃないかと思う」(31日午前0時)
その一方で、「先の見えない人だなぁ…一時停止なんてしたら2度と解除できないどころか、次々と要求されるってわかんないかなぁ」(30日午後6時)などの批判もあがっています。ただ、これらのブログは時刻から考えると、『月刊現代』を読まずに共同通信の記事だけで書いているようです。
東郷さんの提言は、600字余りの共同通信記事を読んだだけで判断できるものではありません。非難中傷する人にこそ、提言の全体を読んでいただきたいと思います。『ファー・イースタン・エコノミック・レヴュー』に掲載した英語論文の抄訳も、まもなく国内の月刊誌に掲載されるそうです。