ムンバイのナニー
2008年12月11日5:00PM|カテゴリー:パイナップルばたけ|キジムナー
11月末のインド・ムンバイでのテロのサイドストーリーとして、2歳になろうとする男の子を救った、勇気あるナニー(ベビーシッター)がテレビや新聞やネットで報じられていた。
男の子の両親はイスラエル人、父親はラビ(ユダヤ教の教師、または導師)で、両親ともユダヤ・センターで銃撃されて亡くなった。1階で身を潜めていたナニーのサミュエルは男の子モイシュが自分の名前を何度も呼ぶのをきき、部屋をそっと抜け出し、階段を駆け上がり、母親の遺体の側で泣いて彼女の名を呼ぶ男の子をとっさに腕に抱えて階下へ行き、家を抜け出した。もちろん、銃の弾は彼女を狙っていた。
サミュエルは、両親を亡くした男の子を命の危険も顧みずに助けた勇敢な女性として、テレビのインタビューで当時の様子を語り、子どもを持つ母親など人々の涙を誘った。
モイシュの父親は、ユダヤ教オーソドックスのラビで、インドへ行く前は、米国ニューヨークのブルックリンに住んでいたようだ。ユダヤ教のラビは、黒い帽子に黒い洋服、そしてヒゲを伸ばしたスタイルで知られている。
両親を亡くしたモイシュは、祖父母や親戚のいるイスラエルへ引き取られる事になった。モイシュを命がけで救ったサミュエルは、イスラエル政府からユダヤ人の命を救った外国人に与えられる特権をえて、いつまでもイスラエルに滞在する事ができるようになった。彼女は、両親を亡くしたモイシュが彼女を必要とする限り、イスラエルでいつまでも一緒にいたいと語り、インドからイスラエルへと旅立った。
サミュエルは、最近夫を亡くしたばかりで、ナニーとなって、この事件に遭遇した。彼女には、自分の子どもが2人いるにもかかわらず、彼らを残して、孤児となったモイシュとイスラエルへと渡ったのである。両親を亡くしたモイシュの境遇は気の毒で、よく生き残る事ができたとも思う。でも、サミュエル自身の子どもたちは、母親と遠く離れることになり、彼らも気の毒だと思う。
サミュエルは、それまで、自分の国内で、外国人の家庭に雇われていたのだが、ついに国を出て、子どもを残して「働き」に行く事になった。
第三世界から、豊かな主要国を目指して移動するのは、男性労働者だけではない。女性が、家事労働、ナニー、労働者、セックスワーカーとして、主要国へ移動をしていく。ナニーも例外ではない。グローバルに人が世界を行き来する現在、第三世界は、資源や労働だけではなく、感情や愛情も搾取されているのである。
主要国では、家事労働などが、第三世界から働きにやってきた女性によって担われることで、性別役割分業が固定化されることになる。
インド、ムンバイのナニーをめぐる美談の陰に、グローバリゼーション時代の貧富の格差を背景とした、女性の労働の問題が隠されていると思う。