書評 『されどアナログな日々』(牧野茂雄著、アルファベータ刊)
2008年12月10日10:48AM|カテゴリー:マカロニほうれん総研|Hirai
筆者の牧野さんは知る人ぞ知るモータージャーナリスト。
愛車は古いボルボ240とマツダRX8。
先日はタンカーまで取材していたという機械を語るプロフェッショナルである。
しかし、この本を読んで、氏のルーツはオーディオにあったのだなあと判明した。
レコード盤を愛する人はいまだにいるが、牧野さんはラジカセも偏愛する。
音が鳴る機械への情熱はひとつの才能だ。
私はいつからか、人の個性の大きな要素はその人が何を好きかということなのではないかと考えている。
好きなモノやコトを自分で選択できる人は幸せだ。
私の周辺は私を含め事物を批判する記者や編集者が圧倒的に多い。
それはそれでエキサイティングだが、自分の感覚で好きなモノを追求する記者の満足感や饒舌さは時々うらやましく思う。
さて、本書ではたとえば、牧野氏がカセットテープやレコードをデジタル化する過程で、デジタルそのものの利点と欠点をさらけ出していく様は有無を言わせない説得力がある。横並びのメーカーの問題も長年のオーディオマニアで製品を熟知しジャーナリストとして追及を止めないからこそ(欲深いだけか?)、自然と浮かび上がってくる。
最新技術など常に前しか見ないマニアもいるが、過去の製品やノーブランドの製品にもしっかりといいところを見いだす牧野氏の視点は結構好きだ。作り手が情熱をこめた機械に、同じような情熱をこめて理解しようと向き合っているのだろう。
また、本書はタイトルにあるような単なる懐古趣味などではなく、スピーカー、ケーブル、アンプ、イヤホンなどについて一般的なオーディアマニアもおそらく納得するだろう技術的な含蓄もある(と思う。私はマニアではないのでわかりません)。
ともかくipodも数台使い潰すほど、音楽なしではいられない人物なのだ。
本書を読めばオーディアマニアのある種の到達形ってこうなるんだろうなあと(もちろんまだまだ発展するのだろうが)納得するだろう。
そして、アナログ的な世界のよさをしみじみと感じるに違いない。エイベックス的ではなく、横浜・桜木町のジャズ喫茶のような。