美しく制御された判決文(上)
2008年12月26日3:15PM|カテゴリー:シジフォスの希望|Kataoka
シジフォスの希望(20)
仕事柄あるいは労働争議の経験から、数え切れないほどの判決文を読んできた。しかし、これほど美しく制御された文体の判決文にお目にかかったことはない。2008年4月18日に名古屋高裁(青山邦夫裁判長)の出した「自衛隊のイラク派兵差し止め請求控訴事件」の判決である。
日本の裁判官の書く判決文は、悪文の見本市だ。その筋(司法)の業界用語的な字句がほぼ全面的に駆使され、じつに回りくどく、判りにくい。司法試験ではきっと、法律に関わる知識は問われても、判りやすい文章を書く能力は一切問われないのだろう。でなければ、そんな惨状を晒すはずがない。
で、名古屋高裁の判決文。以下3つのパラグラフ(段落)は、判決文の記述を使用した要旨のごく一部である。
イラクに派兵された航空自衛隊は、米軍が開発したパラシュート部隊のための輸送機「C-130H輸送機」で、2004年3月2日から物資と人の輸送を開始した。クエートのアリ・アルサレム空港(米空軍基地)からイラク南部のタリルまで週に4回前後、06年7月31日からは同空港からバグダッド空港へ、やはり週4回から5回、定期的な輸送活動を実施している。が、輸送の対象のほとんどは人道復興支援のための物資ではなく、多国籍軍の兵員である。これは陸上自衛隊のサマワ撤退(06年7月17日)を機にアメリカからの要請でなされているものだ。
04年11月のファルージャ掃討作戦では、米軍兵士4000人以上が投入され、クラスター爆弾並びに国際的に使用が禁止されているナパーム爆弾、マスタードガス及び神経ガス等の化学兵器を使用。残虐兵器といわれる白リン弾が使用されたともいわれる。子どもを含む民間人を多数死傷させ、イラク暫定政府の発表によれば、死亡者は少なく見積もって2080人である。
イラク戦争開始(03年3月20日)以来、戦闘によって死亡したイラク人の数は、06年11月9日の世界保健機関(WHO)発表では最大22万3000人、英国の臨床医学誌ランセットによれば同年6月までの死者が65万人を超える。そのほか、人口の7分の1に当たる400万人(※)が家を追われ、多数が難民となって近隣諸国へ流出することを余儀なくさせるなど重大かつ深刻な被害を生じさせている。
※この数字は当然ながら、さらに拡大しており、本誌08年10月3日号の高遠菜穂子リポートによれば、難民の数は国民の5人に1人、500万人以上に達する。
つづく(2008年12月26日)片岡伸行