きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

『朝日新聞』医療記事に神奈川保険医協が抗議

2009年2月27日付『朝日新聞』

2009年2月27日付『朝日新聞』

 

神奈川保険医協会の3月4日付け声明では、2月27日付『朝日新聞』掲載の医療記事を<医療不信を助長する朝日記事「『保険村』」の闇 一知半解ではなく、木鐸たる筆を望む」と題して激烈に批判している。

「一連の記事は、基礎的な事柄の理解を完全に誤り、事実誤認を出発点に論が進められている」「総合性がなく一面的でバランスを欠いており、ある種の悪意が底意として透けてみえる」というのは序の口ですが、簡単に検証してみましょう。

記事の骨子を簡単に述べると『朝日新聞』の記事は、歯科医が請求する診療報酬が大幅に増えているが、それは診療報酬を歯科業界が患者にわからないように値上げし、ひねり出しているから--という構造で成り立っています。

●診療報酬とは

ここでいう診療報酬とは、保険者から医療機関に支払われる対価です。どんな治療をしたら何点(1点10円)かかりますよ、と解説がついた保険診療点数表(注)がありまして、点数表での点数が上がればわれわれの治療費は上がります。それはつまり、医師の収入が増えるということです。

診療報酬改定とはこの項目や点数などを議論して変える作業であります。

さて、保険医協は『朝日』の記事を根拠のない事実に成り立った誤報と指摘しています。この記事を書いた記者を初歩的な医療費に関する知識を欠いており、悪意に満ちた物語を作り出していると言います。

対象となった記事は二点ありました。

一つは「歯科医療費 改定幅超す伸び」というストレートニュースの記事。

もう一つはストレートニュースを補足するサイド記事として、<医療の値段 保険村の闇」>という記事がありますが、それのことです。

 

 ●指摘する内容は

保険医協の具体的な指摘は以下のようなものです。

1 同紙は歯科診療報酬(歯科医が受け取る報酬)で決められている伸びの0・42%を大幅に上回る3・4%という伸び率になったと報じている。それだけ医療費が増えたということです。

しかし、保険医協は3・4%は厚生労働省の対前年比の医療費動向の数値であり、診療報酬の伸び率を表すものではないと、『朝日』の統計資料の理解は間違っていると指摘。

2 さらに医療費の伸び率は財務省の予算から試算して4・12%(想定の伸び率3・7%+改定率0・42%)である。それからすれば 3・4%<4・12% となり、医療費の伸びとして考えても下回っているとあらためて歯科医療費の伸び率を解説。

3 さらに、問題はここでとどまりません。

『朝日』は診療報酬が大幅に上回ったという前提に立って、その理由を暴く取材記事を進めています。その結果、<「保険村」の闇>と題する記事で、診療報酬が大幅に上回ったのは(繰り返すがこれは朝日の主張で実際は増えていないという)診療報酬請求を歯科医学会が膨らませたからなどとコメントを用いて説明しています。

そもそも今回の記事は専門用語があり、前提知識が求められる記事。おそらく医療に関心ある読者以外は読み飛ばしていることでしょう。残るのは見出しの印象だけです。その見出しも大胆に間違ったことになるわけです。

『朝日』では記者の記事をチェックしたデスクも何を書いているのかわかっていなかったのかもしれません。しかし、編集委員が記名で書いているのだから、それなりの専門家が書いている。それに記事をみれば相当な労力を払って書いた記事だとお見受けします。

しかし。

砂上の楼閣。

ハチャメチャである。

 

●感想

さて、ここで医療機関ではない私が常々思うことがあります。雑誌編集者やっていての実感ですが、自分も含めて新聞・雑誌含めて社会部、政治部的記者は数字がわからない、技術がわからない、語学に堪能ではない人間がマジョリティだということです。

メディアで報道されるのは、記者が理解できる範囲ですから、重要な情報であれ、記者が理解できない部分は削られて(これを編集という)もしくは最初からなかったことにして報道されています。

これまでメディアが偉そうにできたのも、第四の権力とかいいますが、別に権力ではなく一種の暴力装置だからなのでしょう。それなりの暴力性があると、殴られてほうもケンカしようとしませんし。もちろん広告媒体として利用価値があったことも大きいでしょう。

ちょっとシケタはなしになってしまいました。

ともかく、ベースの知識のしっかりした神奈川保険医協会のほうが、某紙よりよほど「ジャーナリスティック」だと思いました。

 

●(注)「診療報酬点数表」で検索をかければ便利なサイトがいくらでも出てくる。

たとえば「しろぼんねっと」は下記のアドレス

http://shirobon.net/20/ika_1_1/i_m_1_1.htm

点数表には初診料は270点、エックス線画像撮影が65点など書かれている。たとえばこのメニューで診療を受けた場合、3割負担者の場合、2700円+650円×30%=1005円を窓口で支払うことになる。自分の医療費が気になる人は一度照らし合わせて計算してみるといいかもしれない。診療内容が詳しくわからずとも、おおよその計算はできるでしょう。

(訂正) 上記の2700円+650円×30%=1005円は間違いで、(2700円+650円)×30%=1005円が正しい数式です。記者や編集者が数字に弱い一例を図らずも証明しました。K教授、ご指摘ありがとうございました(3月13日付)。