金曜俳句への投句一覧(9月末締切、兼題「柿」)
2010年10月13日6:26PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です
選句結果と選評は『週刊金曜日』10月22日号に掲載します。
【柿】
丁寧にスプーンで熟柿掬う女
ぬんめりと熟柿の口に広ごりぬ
柿もぎて近くなりけり山姿
実家より箱いつぱいの渋柿が
病床の熟柿呑み込む母の喉
日々に柿色づき婆のひとり言
いのちは「きよらかな矛盾」柿吊す
家の柿あんまりうまく生ってない
きみが吸ふ柿ひいやりと風の午後
柿日和寺に一人の客の見ゆ
てならひや朱入りて柿の熟さるる
若き渋超へ甘き熟柿かな
あと三年見守り育てたカキの種
冥婚の墓に供へし富有柿
手入れなき庭にも蒼き柿実かな
柿の実の青き美空に残りけり
ちぎり柿囓りて酔いを醒ましをり
柳川は柿の陰からドンコ舟
柿はこのしかと収まるかたちして
ぼりぼりと柿食うてまた一つ剥く
柿生っていてもそんなに食べてない
父母在りて木守りの柿仰ぎ見し
夜は月に色を頒けゐる木守柿
修学旅行で初めて見た柿の木よ
二日酔、柿のおいしさ身にしみて
団塊と呼ばれて久し柿紅葉
天寿てふきれいな言葉柿熟るる
柿づくし柿の葉寿司も柿酢搾(し)め
通夜の間に古きアルバム柿をむく
叱られて祖母がくれた柿の味
柿を売る学生街の果物屋
樽柿に脂すすりをり幼顔
縁がわに柿渋抽(ひ)きし祖母と吾
廃校やどこの家にも柿赤く
熟柿一つ洗車を終えし屋根に落つ
田舎から箱の渋柿もてあまし
まだらなる葉に包まれし柿の葉寿司
子どもらは樹に鈴なりに次郎柿
柿が生る父母亡きあとの甍上
新刊と柿と種とが一つ籠
一村はやっと五六軒里の柿
仕事終え深夜に食べる柿甘し
細き手がそっと開きし柿の窓
ボランティアの柿もぎ隊や過疎の村
頭痛して空に木守柿の気分
家の柿家風はちょっとお武家様
家の柿どこでも買えない父の味
柿照るや男の笑みは満面に
我が柿は無人朝市一番人気
風去りて渋柿拾ひし老婆あり
柿食へばシャガールの絵が動き出す
かくし味地産地消の柿酢かな
するすると柿剥くナイフバレリーナ
柿の影ゆらゆらとおき蔵の壁
柿といううんだれ柿のうまさかな
柿サラダつくりし妻の鼻ひかり
柿食うぶ喉うつくしや君十九
大いなる富士の空切る柿すだれ
渋柿を甘くするのに吊し上げ
柿熟るる釣書てふは恐ろしき
しなやかに柿むく指の直く白し
柿生って親戚のものとりに来る
天空の枝に残りし柿一つ
木守りの柿まで啄むカラスかな
木守柿目白と鵯(ヒヨ)の餌となり
塀ごしのとるかとらぬか渋柿か
遠方の海に日のさす木守柿
種なしの柿は食べでがあり嬉し
柿なんて買うもんだとは思ってなかった
二日酔い防止の父の吊し柿
高木(こうぼく)の柿こそ柿の甘味かな
空に底あれば転がる木守柿
秋深し熟柿ほお張るひとり旅
風やみて柿に微熱の灯りけり
とろりんとなるまで寝かす祖母の柿
柿生ってつましい嫁の物語
酸味なく甘いから柿好きと祖母
八百屋まで柿を買っているオレがいる
白壁に影くろぐろと柿日和
山国の日差し平らか吊るし柿
渋柿を集めて老婆の渋づくり
柿赤し闇は土蔵の明り窓
信濃柿夭折画家の筆一途
首の骨鳴らしてかじる吊し柿
柿むくや所在なき日の午後三時
焼酎に濡れて届きぬ母の柿
風呂あがり渋抜き柿はおやつなり
古里や登りて食らう五升柿
木借景柿の葉掃きて実拝借
誰そ彼れの部屋丸見えぞ熟柿吸ふ
まあなんと折り目正しき富有柿
瀬戸内を眼下に柿をむく真昼