きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

ITライター・佐々木俊尚さんの事務所は「クール」でした

<北村肇の多角多面7>

 やはり、椅子、テーブルのほかは家具らしきものがなかった。インタビューで訪れたITライター・佐々木俊尚さんの事務所兼自宅の話だ。「やはり」と言ったのは、IT業界の関係者を訪ねると、昔ながらの応接室――洋酒やゴルフコンペのトロフィーが並んだサイドボード、分厚い本で満杯の本棚――にはおよそ出会ったことがない。広い空間に必要なものだけが置かれ、生活臭を感じさせないのである。

 一つの理由は、電子空間の整理術が反映しているからではないか。パソコンはいわば無尽蔵の収容ボックスが存在する空間。ファイルにきちんと収めれば、いくらでも情報は貯められるし整理もできる。知恵と工夫をこらすことにより、机の周辺から書類の山を一掃することも不可能ではない。電子書籍時代になれば、書棚も無用の長物になるかもしれない。家具などが雑然とする部屋は、IT業界の関係者には似つかわしくないのだ。

 もっと本質的な理由は、「クール」の希求にあるような気がする。狭い空間で家具と人が混在し、ぶつかりあって暮らす空間を「ホット」とすれば、機能的で生活臭の薄い空間は「クール」だ。もちろん、佐々木さん宅でも、例えば茶の間は存在し、そこでは家族だけの「ホット」な世界があるのかもしれない。だが少なくとも、他者を迎え入れる応接室や事務所は「クール」そのものだ。

 以前にも触れたが、テレビ視聴率のランキングをみると、相変わらず「笑点」や「サザエさん」といった長寿番組が上位にある。どちらも、冬はコタツで、夏は一台の扇風機を回しながら、家族そろって観ていた番組だ。まさしく「ホット」な空間が家全体を占めていた時代の人気番組が、未だに高い視聴率を誇っている。

 具体的なデータは持ち合わせていないが、テレビ視聴者の主流は中高年に移りつつあるのだろう。年齢が高くなると「不変」を求める傾向が強まる。昔のままに続く「笑点」や「サザエさん」を観てほっとするのだ。58歳の私も、テレビはほとんど観ないが「不変」に癒される経験はたびたびある。

 若い世代がどこに向かうのか。いまのところ解答は見いだせない。核家族化とインターネット、携帯電話の普及により、家庭が「クール」化しているのは間違いない。だが一方で、そんな環境に耐えきれず「ホット」な空間を求めることだって考えられる。いずれにしても、一旦、「日本的岩盤」が崩れなければ、その先の展望は見えないのかもしれない。
 佐々木さんインタビューは近々、本誌掲載の予定です。(2010/11/19)