「新聞」の可能性を示した新聞労連大賞受賞作
2011年1月21日6:19PM|カテゴリー:多角多面(発行人コラム)|北村 肇
<北村肇の「多角多面」(14)>
2011年1月、「希望の見える」と形容したい出来事があった。タイガーマスクの話題ではない。新聞労連大賞の受賞作が、堕落の一途だった「新聞」に明るい灯をともしたのだ。同賞は「平和・民主主義の確立、言論・報道の自由などに貢献した記事・企画・キャンペーン」を表彰するもので、今回が15回目。私も審査員の末席を汚している。
正直、ここ数年は応募作が減り、内容もいまひとつだった。だが、今回は違った。約20点の応募作はどれも力作で選考に苦慮した。特に大賞を獲得した二つの企画は、「新聞」の底力と可能性をくっきりと示した。
▼「大阪地検特捜部の主任検事による押収資料改ざん事件」(朝日新聞)
▼「普天間飛行場問題の本質に迫る報道」(高知新聞・琉球新報)
前者は説明の必要がないだろう。「権力の監視・批判」という、ジャーナリズム本来の使命を忘れているのではないかと指弾され続けてきた全国紙が、久々に放ったホームランだ。隠蔽された事実を発掘し報道し、そのことにより社会正義の実現に寄与する――まさに真のスクープである。
後者は企画自体が画期的だ。高知新聞は「本紙加盟の通信社をはじめとする在京メディアの報道は、基地問題の本質的な議論を喚起するようなものではなく、移設問題がらみの政局報道が中心で違和感をもっていた」という。そして、「沖縄の視点で基地問題を考えるため」に琉球新報に関連記事転載の協力を依頼、8月から11月にかけ12回の記事提供を受け、紙面化した。もちろん、高知新聞独自の記事も掲載している。
また、惜しくも大賞は逸したが優秀賞になった「安保改定50年~米軍基地の現場から」は神奈川新聞、沖縄タイムズ、長崎新聞の3紙が、それぞれの県が抱える基地問題をルポ、各紙面で掲載したものだ。高知の取り組みも3紙の提携も、全国紙では考えられない記事のつくりかたであり、地方紙ならではの成果である。
全国紙が統治権力の批判をし、地方紙は連携をとりつつ「地方の全国ニュース」を展開する。これこそ、劣化の進む「新聞」が生き残るための一つの道と確信する(拙著『新聞新生』(現代人文社)参照)。
むろん、『週刊金曜日』は2011年、さらに輝きます。(2011/1/21)