きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

[この国のゆくえ8…菅首相の「永久に忘れない」発言を斬る]

<北村肇の「多角多面」(27)>

 自分でも「まずいな」と思う。最近、何かと腹がたったり、イライラする。「情緒不安定」はジャーナリストにとって“毒薬”だ。へたをすると、全身が侵されてしまう。何とか避けなければとそれなりに努力してきたが、またまた毒の回りそうな出来事……。

「永久に忘れない」――菅直人首相は、訪日したクリントン米国務大臣にこう伝えた。東日本大震災対策支援への謝意をこめた発言だ。「おいおい、安っぽいドラマや歌ではないぞ」と怒りがわくとともに、慄然とすらした。この時期、この場面での発言は、オバマ大統領の名代であるクリントン氏へ、「日本は未来永劫、米国に従います」という誓いの言葉を捧げたことにほかならない。怒りはそのことに対してだが、寒気がしたのは「ひょっとしたら菅氏は深く考えずに喋ったのではないか、あるいは外務省の指示に従っただけではないのか」という疑いを禁じ得ないからだ。

 二人の間では、非公開を前提にしての会話もあっただろう。その内容はまだわからない。ただ、共同会見に日本経団連の米倉弘昌会長と米国商業会議所のドナヒュー会頭が同席したことで、一端はうかがえる。それは、数十兆円単位といわれる「震災復興事業」への米国企業参加だ。もともと米国は日本に対し、規制緩和、門戸開放を強く求めてきた。郵政民営化はその象徴である。今回のヒラリー訪日にも、「これだけ助けたのだから、見返りは当然だろう」という“圧力”が透けてみえる。これに対し、本来の首相の役目は、「それとこれとは別」と、するりと身をかわすことだ。ところが、冒頭から「永久に忘れない」だから、クリントン氏にしてみれば「してやった」だろう。

 米軍基地問題も含め、日本をうまく利用するために、米国は福島原発の致命的崩壊は何としても避けたい。大震災・原発事故という二重の危機による日本経済崩壊は、米国にとっても最悪の事態だ。「金づる」が貧困国になっては困るのである。一方、日本政府が「自分たちで何とかする」と言える状況ではない。もはや米国の力を借りずして福島原発の危機乗り越えは不可能だ。では、どうしたらいいのか――。菅首相が一国を預かる身として、必死に自分の頭で考えたのなら「未来永劫、日本は米国の子会社になります」という宣言はなかったはずだ。謝意は謝意として、協力依頼は依頼として真摯に伝える。その一方で、自立した国家としての立場を自分の言葉で明瞭に伝えればよかったのだ。

 ああ、他にも腹のたつことを思い出してしまった。全国紙はどこも「永久に」発言の問題点をとりあげなかった。報道機関の劣化が政治の劣化をもたらす。これもまたこの国のお寒い実態だ。(2011/4/22)