警視庁の天下り問題3 元警視庁生活安全部長の正直すぎる話
2011年7月15日2:00PM|カテゴリー:マカロニほうれん総研|Hirai
風適法違反の疑いのある東京都のパチンコ景品流通システムにはたして警視庁は関与したのか、しないのか。
業界にずっぽりとはまっている警察OBは関与していると証言し、警視庁はよくわからないと逃げている。一体どっちなの?
暴力団排除のためにこのシステムを導入したはずだが、業界内部からも訴訟が起きるなど疑問の声が広がり始めている。そして、今年になってからこれを『週刊金曜日』という警察をよく批判している、よくわからない雑誌までが調べているというおだやかではない事態になっていた。
そのような状況で、天下り警察OBを援護射撃する有力な”相棒”が問屋たちを相手に話しをすることになった。
前回でご紹介したように6月17日に開かれた研修会で元警視庁生安部長が講師として呼ばれたのである。
そして筆者は6月17日と20日の講演記録の起こしを入手しているのである。
われながらこんなものまでと思うが、週刊誌にはいろいろなものが持ち込まれるのである。パチンコは特に東京電力並とまではいわないが広告費をばらまいているので、なかなか批判もされない。警察もがっつりと関係しているのでメディアもあまり触らない。
だから『週刊金曜日』を最後の頼みの綱として警察の浄化を望む声が届くのである。
やりましょう。
元公安で高尾警察署長と元警視庁生活安全部長
元警視庁生活安全部長の石田唱司氏は、東商流組合の専務理事を務める警察OBの若杉秀康氏と「警察学校で寝食を共にした仲でありまして、話をしてくれないかとの話がありまし」たと、講演の中で呼ばれた動機を述べている。
若杉秀康氏とは、道本氏と同様、警視庁で公安課長や高尾警察署長を務めた警察OBである。専務理事は常勤し、組合の日常業務を遂行する役割であり、業界の方向性をも決めていくこともできる立場だ。
講演録を拝見すると石田氏は思いの外率直に自身の考えを述べているし、わかりやすいので少々長いが<>で引用する。
<最初におさらいの意味で、なぜ警察が商取引、パチンコ業界にしゃしゃり出ているのか。
もちろん風適法によって規制されているわけであります。それで監督官庁は警察、公安委員会というわけであります。考え方によっては営業できる人が決まっていますから法によって規制されているというよりも、法に守られているという側面もあるんです。法を守っていればきちんとした営業は続けられるということが言えるわけであります。
その中で、非常に難しい問題というのはあるんでしょうけれども、おさらいをしてみますと、法の規制というのは風適法23条の「営業者は現金、有価証券を賞品として交付してはいけない」、二つめとして「客に交付した賞品を買い取ってはいけない」そして都条例では7条に「買い取らせてもいけない」。従って賞品還流というのは法はもともとその想定をしておらないということだと思うんですね。現実にはどうなっているのかというわけですね。>
再度、掲載。
風適法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)23条とは下記のような条文である。
(遊技場営業者の禁止行為)
第23条 第2条第1項第7号の営業(ぱちんこ屋その他政令で定めるものに限る。)を営む者は、前条の規定によるほか、その営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない。
1.現金又は有価証券を賞品として提供すること。
2.客に提供した賞品を買い取ること。
3.遊技の用に供する玉、メダルその他これらに類する物(次号において「遊技球等」という。)を客に営業所外に持ち出させること。
4.遊技球等を客のために保管したことを表示する書面を客に発行すること。
本当にパチンコ店は現在も買い取りをしていなんでしょうかね。警察は調べていないようだが、換金景品を循環させてしまうほうが遊技場経営者にとって楽だし、その誘惑にすべての店が打ち勝っているのでしょうかね。そうは思えませんよ。
続ける。
<まず一番問題になったのは平成の初めころ、私がまさに署にいたころ、やはり暴排について話がボーンと本部から指示が来たという感じでした。当時は平成の初めかでしたか、新聞にも出ましたですね。遊技場業界から都内で1年間に500億円とも600億円ともいわれる金が暴力団に流れている、これが有力な暴力団の資金源だというのが出まして、これはこのままでいいのか、国民にもパチンコファンにも、皆様方、業界の方々にも大きなショックであったわけです。
当時私はその東京方式とか3店方式とか、金地金導入というその部分の検討とか、そういうところには全くいないんですね。皆さん、業界の仲で、私はあたかも新方式あるいはその金地金導入に、どうも行政の代表として携わっていたんじゃないかという情報が流れている。実は違うんです。>
この研修会に来ている人は石田氏が代表的な人物だと思って足を運んでいただろうから、ここでかなりの肩すかしをくらっただろう。椅子から転げ落ちた人もいたかもしれない。
続けて金地金景品の導入経緯について。
<平成元年は署におりましたし、保安課に行ったのは平成7年になってからですので暴排の最中でした。
特に墨東地区の暴排に取りかかったわけであります。従ってもちろんその業界の方々の話で、金地金導入の経緯ですとかは耳学問で知ったわけであります。
おそらく私が理解している範囲のものは外れてはいないだろうと思うのですが、当時はその買い取り部分にどうも暴力団が関与している、その買い取り部分を何とかしよう、ですから私が署にいた時は最初はショップ、昔は買場と言いましたけれども、買場が暴力団の息がかかっているので、そこはやめて別の買場に変えましょう、というところから始まったということです。
そのうちに、いわゆる特殊景品と言われる価値のないものが換金に使われる、還流賞品に使われているが、それはよくない。それじゃあ、その価値のあるもので等価交換というものが原則でありましたので、等価交換に耐えうるものということで、業界で議論がなされたという風に思っています。
当時、確か金地金が一般賞品として出されているホールがあって、それをお客さんが求めていたということもあったという話で、金についての検討がなされたといいますね。金は現金でもないし、もちろん有価証券にもあたらない。また古物としての取引の制限される古物営業法指定商品にもあたらないということからですね。持ち運びにも便利、価値もあるということで金賞品がおそらく業界の総意で導入されたのですね。
それを導入することによって暴力団と手を切りましょう、むしろ金賞品を導入したということは暴力団と手を切れないと組合として、業界としてそれは認めないよと。だから金賞品を導入するには暴力団と手が切れたとその証にしましょうということだったのです。そういうことから金導入がなされたのであります。ところが、やはり確かに、おそらくその時これ以外なく、これは名案だと思ったと思うんです。
しかし何でもそうですが、日が経ち、一の考えも時間とともに変わっていく、その社会も変わっていく、中には異議を唱える人も出てきます。そういうつもりで入れたはずの金が、いや金というものは、日本の円はアメリカの隅っこでは通用しなでいすけれども、金なら通用するじゃないか、現金よりもむしろ通用性があるんじゃないの、それはどうなの、いかがなものか、という意見も出てきたんです。じゃあこれに対して、こういう批判に対してどうするのか。皆様はどういう回答をしていますか? 業界としてはあくまでも法に規制されている現金ではないし、有価証券でもない。だから23条に直接違反するとは考えていないと、当然皆さんそう答えています。
もう一つは導入の経緯が暴排でありますから、これによって我々は身体を張って暴力団と手を切ったんだ、それ以後、暴力団の再介入は認めないし今後ともこれは継続していくんだ、ということしか反論材料といいますか、納得してもらう意見としてはないんだろうと思います。とするならば、ここにきて、まだ暴力団の関与を許すとか腐れ縁が復活するとかいうことになれば、この金導入の問題というのは根底から崩れてしまうということになるのです。その辺が一つ、やっぱりこれは永久的な課題として、体を張って暴排を戦っていかなければいけないということであります。>
現在は、シールによって金賞品の価値が違うので金賞品の等価交換は崩れてしまっている。この「東京方式」とやらは、破綻しているわけである。おまけに「ニセ金」も出回っているという始末だ(下の写真参照)。
続ける。
<それから二つ目の問題といたしまして、ホール依存型、主導型から独立型へ。
そもそも東京方式というものは業界の責任において、業界が自ら考え出し取り入れた者だという風に理解をしております。そこで、私も行政の立場におりましたけれども、行政のスタンスというのはきちんと業界のことは自分で考えましょうということです。早い話が。
「金地金を賞品にする3店方式というのは遊技業界が自らの責任と判断で考え出したものであって、行政、すなわち警察はこれに関与しない。警察は遊技業界が行う暴力団排除に対しては全面的に支援し、その推移を見守ることとする」との見解だったと思うのです。
いまも続いているのではないかと思います。従いまして、私の現職時代におきましても、この東京方式とか新流通システムそのものを、いいとか悪いとか判断したことはありません。言ったことはありません。>
なんと。
若杉氏らは自らが招いた石田氏の発言に唖然としたのではなだろうか。
OBの若杉東商流専務理事らは東商流が進める東京方式について警察からバックアップされると思って、石田氏を講師に呼んだはずではないだろうか。
石田・元警視庁生活安全部長は完全に金景品の導入は業界が独自にやったことと警視庁の責任逃れを強調しているわけです。なんのためにこの人は来たのだろうか。
これは昨年11月に金地金商から元上野警察署長の道本佳治氏がGTミッションという金地金商に訴えられている約3億円の損害賠償訴訟では、元上野警察署長の道本被告が真逆の主張をしていたことを意識しているのかもしれない。
元上野警察署長の道本被告は、ホールの組合団体である東京都遊技業共同組合(都遊協)の専務理事だったが、本誌が3月4日号で報道した後に専務理事の退任している。
以前も紹介したが道本被告の準備書面では次のように述べていた。
<「都遊協等と警察が入念な協議を行い、買い取り対象となる景品を一般に市場価値があり貴金属店での売却が可能な金地金を用い、またいわゆるショップが買い取った景品を、問屋が仕入れ、パチンコ店に納品する前に、集荷場で互換することで、同じ景品が再び同じパチンコ店に還流しないようにするという景品システムを考案した(以下「現行景品システム」という。)>
「警察と入念な協議を行い」と仰るわけだが、これは石田元生活安全部長の発言とは矛盾する。こちらの警察OBもハシゴを外されてしまった。
私が警察OBのパチンコ業界への天下りと風適法違反の疑いのある金賞品について4月13日に警視庁に取材しているので、警視庁としてはこの案件について過敏になっており、これを石田氏らに伝えたのかもしれない。実態はわかりませんが。
引き続き、石田元生活安全部長の講演に戻ろう。
<それが違法ならば指導なり取り締まりをするなりしますよ、というのが行政の基本スタンスだったと私はそのように理解しておりますし、いまもこれは変わったとは聞いておりませんので、これは今も続いているのではないか、当然だと思います。だとするならば、そこには行政側の含みというのがある。認めていないんですから、いいとか悪いとか判断もしないのですから、じゃあまだもっともっと改善の余地があるんじゃないの、もし改善を怠り、前進を怠り元の黙阿弥に戻ってしまうようなことがあれば、暴力団の再介入を許すとか、健全な営業から外れるというようなことがあれば、いつでも厳しい指導をしますよ、ということは担保されているという風にわたしは考えるべきと思います。>
石田氏の講演は反社会勢力の話などにまで及びまだまだ続くが、この辺で辞めておく。
結局こう見ると、警察OBは、パチンコ業界よりも、警察OBよりも、やはり警視庁の面子を保つということが大事だったということなのだろうかと思えてくる。
(おわり)