[この国のゆくえ25……野田氏にリーダーの魅力は感じない]
2011年9月1日1:07PM|カテゴリー:多角多面(発行人コラム)|北村 肇
<北村肇の「多角多面」(44)>
自分は物知りだと信じて疑わなかったのは、何歳くらいの時だろう。中学高学年や高校生のころは、「テレビのクイズ番組に出れば絶対に優勝する」と本気で考えていた。30代半ば、新聞記者10年生当時は、誰よりも物知りという奇妙な自信にあふれていた。
59歳のいまはどうか。物知りどころか、知らないこと、わからないことだらけで右往左往する毎日だ。「勉強」しようにも本を読む速度は遅くなるし、理解力もすっかり衰えた。そのくせ、ここ数年「成長したな」と自分をほめている。「知らない、わからない」ことを「知る」、それが何よりも大切なのだと「わかった」自分を認めているのだ。
流行語にもなった「想定外」。わかった気になっていたが現実は違った、それを想定外というなら、中身のない物知り顔の人間が連発する言葉にほかならない。東電幹部は「原発は安全だとわかっていた」から、過酷事故は想定外と言い放ったことになる。愚かだ。そうではなく、もし、本心では「危険と思っていた」なら、それは詐欺師だ。
新総理に野田佳彦氏が選ばれた。政府主催の会合で何度か野田氏に会ったという某学者は「ほとんど発言しないし、何を考えているのかわからない政治家」と評していた。自民党隆盛時代、三角大福の一人である大平正芳元首相は「アーウー総理」との名前がついた。「アーウーというばかりで、頭の中も腹の中も見えない」と政治部記者がぼやいていた。しかし、大平氏の急逝後、どうやら頭はぐるぐると回転し腹は据わっていた、との感想を漏らす記者が多かったのも事実だ。
さて、野田氏はどうなのか。今回の民主党代表選では「ほとんど発言しない」姿勢が功を奏した。小沢一郎元代表との関係を聞かれて色をなしたり、「野党との三党合意は白紙」と、誰が見ても勇み足の発言をしてしまった海江田万里氏とは好対照だ。
しかし、「何がわからないのか」をじっくりと考え思索に耽っていた風には見えない。政治家ならだれでも、いま、最も「わからないこと」は、「日本の基本構造をどう立て直せばいいのか」だろう。付け焼き刃の政策ではなく将来を見据えた戦略が重要なのだ。社会を覆う暗雲を取り払うには、「わからないこと」にきちんと向き合い、黙考し、多くの知恵を借り、最後は自らが決断するリーダーが求められる。野田氏にその魅力は感じない。
もちろん、予断はフェアではない。いまはただ、私の見立てが間違っていることを望むばかりだ。(2011/9/2)