この国のゆくえ31……いまさら秘密保全法ですか
2011年10月20日4:34PM|カテゴリー:多角多面(発行人コラム)|北村 肇
<北村肇の「多角多面」(50)>
ウソをついてはいけない。その通りだ。でも、まったくウソの存在しない社会など成り立つわけがない。かりに、だれもが相手の心を読めたらどうだろうかと考えてみる。おそらく、あちこちでいざこざが絶えず、私たちは人間不信の塊になるはずだ。本心をぶつけ合うことは必ずしも「善」ではない。
「隠し事」にも同じことが言える。秘密を明らかにしないほうが幸せで、正直が悪になることだってありうる。人間関係の機微はなんとも微妙で複雑だ。きれいごとの教訓話では割り切れない。といって、これらはあくまでも、私たちひとり一人の日常での話である。相手が国とあっては別だ。
政府は「秘密保全法案」を次期臨時国会に提案する方針という。報道によれば、行政機関が所有する秘密情報の中に「特別秘密」を設け、故意に漏洩した場合は厳罰に処すとされる。はっきり言おう。意味するところは「国にはウソや隠し事が必要。だから、それを暴くことは許さない」ということだ。つまりは、官僚や政治家の本音そのものである。
1985年、中曽根康弘首相は悪名高き「国家秘密法案」を提出した。しかし、市民やマスコミの強い反対により廃案となった。その後も、政府や自民党はたびたび成立をもくろんできたが、日の目を見ることはなかった。今回は、民主党政権のもとで亡霊が出現した形だ。「またかよ」と腹が立つ。
発端は、昨年、尖閣諸島沖で発生した中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件。海上保安官が、衝突の模様を撮影したビデオをインターネット上に流した。政府は国家公務員法の守秘義務批判だとぶち上げたが、結果は起訴猶予処分。これを受け、仙谷由人官房長官(当時)が秘密法制に向けての有識者会議を立ち上げた。
問題の映像をご覧になった方も多いと思うが、果たして「特別秘密」にあたるだろうか。政府にとって「都合の悪い」映像だから隠蔽したのではないのか。むろん私も、外交の機微を無視する気はない。市民の平和を脅かすことのないように、あえて隠す情報もあるだろう。だが、上述のビデオ流出や「沖縄密約事件」を見る限り、官僚や政治家の思惑は別にあるとしか思えない。繰り返せばそれは「都合の悪い事実は闇に葬りたい」だ。
こんな法案はそれこそ葬るしかない。ただ、気がかりなことがある。中曽根政権時代と違い、マスコミの動きが妙に鈍いのだ。(2011/10/21)