◆自民党憲法草案のトンデモぶり◆
2013年3月14日11:17AM|カテゴリー:多角多面(発行人コラム)|北村 肇
〈北村肇の「多角多面」(117)〉
前回衆院選に対し違憲判決が次々と出ている。資格のない議員が立法府に居座っているわけだ。ところが、違憲状態にある安倍政権は憲法改定に向けてひた走る。もはや漫画か悪い冗談にしか見えない。先頃、連立与党・公明党の漆原良夫国対委員長が「個人の意見としては96条だけなら改正していいと思っている」と発言した。いわゆる「3分の2条項」が緩和されれば、憲法改定のハードルはかなり低くなる。維新の会、みんなの党、さらには民主党議員の一部も改憲派とあっては、96条改定の危険性が高まってきたのは間違いない。そこで、改めて自民党憲法改正草案(以下「草案」)の検証をしておきたい。
何よりも許し難いのは、憲法の性格をアベコベにしていることだ。言うまでもなく憲法は「権力を縛る」ものである。現行憲法99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とうたっている。ところが、草案では102条で「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」と書かれている。まるで、国民を奴隷扱いしているようなものだ。目が点になる。
現行憲法前文には「これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」とある。つまり今の憲法の原理に反する一切の憲法は認められないわけで、草案自体が憲法違反といってもいい。極論すれば、首相が堂々と国会で憲法違反を宣言しているのと同じだ。
問題の「国防軍」創設を定めた草案9条の二には「国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める」との項目がある。秘密保全法とのセットだ。さらに5項には「国防軍に審判所を置く」とある。また、現行18条の「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」が草案では「社会的又は経済的関係において身体を拘束されない」と変わっている。徴兵制を可能にするためだ。これらをみると、軍事体制国家の確立を目論んでいるとしか思えない。
草案12条「国民の責務」には「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」とあり、21条「表現の自由」2項は「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」となっている。要約すれば「国家に異議申し立てをした組織、個人は許さない」ということだ。
曲がりなりにも「平和な民主主義国家」の道を極端に外すことなく来た日本が、まったく別の国家になる。それが自民党草案の本質である。(2013/3/15)