◆橋下大阪市長、猪瀬都知事の“功績”が安倍政権崩壊をもたらす◆
2013年6月5日3:02PM|カテゴリー:多角多面(発行人コラム)|北村 肇
〈北村肇の「多角多面」128〉
「学習」を積んできたのだろう。わずか1年で退任した屈辱をバネに、安倍晋三首相はそれなりに考えた。だから、まやかしだろうが幻想だろうが、大方の予想を覆しこれだけの支持率を維持している。現時点では“人気宰相”であると認めよう。だが、その座から滑り落ちるのもそう遠くはない。
アベマジックが成功を収めた手口は、マイナスを逆手に取る手法だ。たとえば、総裁選で勝つ以前は超右派であることを前面に出していたが、首相就任後は有権者だけではなく米国にも配慮し、靖国神社参拝を断念するなど“安全運転”に徹する。岸信介氏の孫、安倍晋太郎氏の息子というサラブレッド臭を消すため、フェイスブック、ツイッターを駆使し、大衆に寄り添う風を装う。橋下徹大阪市長の「従軍慰安婦」発言問題が起きると、歴史認識は似通っているのに、表面上、批判的な姿勢を明らかにする。
すべてが嫌らしいし胡散臭い。でも、こうしたシンプルな戦術が意外にも、多くの市民に受け入れられてしまうのだ。振付け師としては、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への“隠密外交”が話題になった内閣官房参与・飯島勲氏と、同じく参与の丹呉泰健氏の名前があがる。いずれも小泉純一郎政権を支えた手練手管の面々である。
問題はこれから先だ。アベノミクスの破綻は必ずやってくる。すでに、日銀の思惑とは裏腹に、株価は5月の大暴落後も乱高下を繰り返し、長期金利も上昇傾向だ。また、超右派の地金は隠しようがなく、安倍政権の国家主義的歴史観に対する米国の批判も厳しさを増している。日米関係は民主党政権時代以上にきしんでいると言えよう。
小泉純一郎氏を思い出す。首相の座を追われても当然の事案はいくつもあった。しかし、小泉人気は続いた。最大の理由は、多数の有権者が幻想にしがみついたことにある。内実はどうあれ、何かしてくれそうな「わかりやすいリーダー」を捨てたくなかった。さらに言うと、「本音主義」で「軽い」ほうがよかった。「強さ」と「親近感」の幻想だ。
安倍氏が「学習」したように、多くの市民は小泉現象から「見せかけの強者」を信用したらとんでもないことになると学んだ。小泉、安倍路線につながる「本音主義」で「軽い」猪瀬直樹東京都知事と橋下徹大阪市長が相次いで、底の浅さ、品性のなさ、哲学の欠如を露呈したことで、さらに学習した市民は増えたはずだ。このことが、安倍政権批判につながらないわけはない。参院選公示まで約1カ月。残された時間は少ない。でも、ないわけではない。流れは変えられる。(2013/6/7)