兼題「蠅帳」金曜俳句への投句一覧(8月30日号掲載=7月末締切)
2013年8月6日7:32PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』8月30日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【蝿帳】
蠅帳を今年初めて見る主催者に
蠅帳や残せば祟りの雨あられ
わが母に蠅帳としてレンジかな
蝿帳やチラシの裏に母は留守
蠅帳の後ろの闇に手を入れぬ
ただ今と帰るおやつは蝿帳に
蠅帳の奥はきのふの小暗がり
蠅帳の煙草の焦げは去年のまま
蠅帳を雌一匹の出るところ
蝿張で守られている昼御飯
蝿張を透して見れば旨さ増し
蠅帳の上に富山の置き薬
蠅帳に納まるほどの暮らしかな
蝿張を伏せてから出る野良仕事
蠅除や不在の母を姉に訊く
蝿帳やひとりの生活笑百科
知恵猫は蝿帳見据へ傍に座す
蠅帳や総菜並ぶカウンター
蝿帳や母の久方クラス会
真昼間の蠅帳猫の透かし見ゆ
蠅帳や誰気兼ねなきコップ酒
蝿帳を語れる友のをり後期
蠅除の四隅の余る昼餉かな
見もせずに種(しゅ)を間違える蠅いらず
蠅帳に深窓の夫飼い慣らす
蠅帳や床屋夫婦の大わらは
蠅帳や波はざばんと浜辺茶屋
母の恋子の見ておりぬ蠅入らず
蠅帳や庭にパセリを摘みにゆく
蠅帳や子ども少き島の昼
蠅帳で覆ふ水槽新猫来
蠅帳やややなまぐさき猫の餌
蝿張を上げれば母の蒸かしいも
蠅帳の中なる皿の色見えず
卓袱台に湖よりの風蠅入らず
蠅帳や死語となりゆく母子家庭
蝿帳をかぶせ赤子を抱きにいく
蝿帳を置く民宿の夕餉かな
蠅帳や晩飯までの刻長し
蠅帳の中に大好物とメモ
蝿帳や待っても来ない蝿を待ち
風抜けて蠅帳卓に覆る
蠅帳や伝言メモも内側に
蝿帳やおやつ作りて母夜勤
蠅帳にメモ書きの字の細さかな
あの頃は蝿帳伏せて深夜食
蠅帳の中ことごとく冷たき菜
蝿張に今も探せり母のメモ
蝿帳をかぶせ卓袱台しかとあり
蠅帳を蠅取蜘蛛の跳び跳ね来
蝿帳を笑はすやうに開きけり
蠅帳と蠅取紙の昭和かな
蠅帳のなかなか開かぬものなのさ
透けて見ゆ蝿帳なか見浅酌す
蠅帳の下に忘るる某
蠅帳を蠅をらずとて念のため
蠅帳といふ名のネット純喫茶
蝿帳や昭和の暗き台所
蝿帳に納まりきれぬ孤独かな
庭先の小昼は楽し蝿帳に
蠅帳や地の芋の湯気抜け上る
蠅帳をふわと兄の手開けにけり
蠅除に隠されてゐる御職かな
蠅帳を出でこれよりは素浪人
蠅帳の隅で押さえし母のメモ
午前様蝿帳の下なにもなく
ふかし芋蝿帳だよと母の声
停電の蠅帳やがて光り出す
蠅帳や一人暮らしの友を訪ふ
蠅帳やショパンはものを腐らせて
蠅除や母情にかたちあるごとく
蠅帳や虫の屍に残る針
田んぼより上がる小昼は蝿帳に
蠅帳や母性は少し乾きゆく
蝿帳や大家族の頃思い出す
蝿帳を置き女子会の母のメモ
蝿帳にしじまのありて仄白し
蠅帳や午前0時の鳩時計
蝿帳をはみ出している怠惰かな
母の伏すものの幾つか蠅入らず
蠅帳やまひるまの雨僅かなり
蠅帳や昭和時代の生き残る
なんとまあ蠅帳のなか混みあへる
蠅帳の目より細かき姑をり
蠅帳を畳の上に逆さまに
蝿張の横なる女優死亡記事
蠅帳にたどりつきたる亭主かな
蝿張の記名カタカナ太き文字
蠅帳の魚の干物は昨日から
蠅帳や貝の砂抜き乱れ飛び
蝿張も可愛いレースの飾り付け
泥足で上がり小昼は蝿帳に
方丈の居間を余さず蚊帳を吊る
日本史の年号唱ふ蚊帳の中
蚊帳の中青き昭和のくすみをり
小躍りし寝る本を手に蚊帳くぐる
蚊帳畳む折り目正しき父の朝
※「蠅張」の誤記はそのまま掲載。「蚊帳」は末尾に固めました。