兼題「虫売」__金曜俳句への投句一覧(9月27日号掲載=8月末締切)
2013年9月4日6:21PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』9月27日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【虫売】
虫売の聲聞くこともなかりけり
虫売に原価尋ねてをりにけり
虫売の虫に逃げ出す子どもかな
虫売の傍にしゃがむ塾帰り
虫売りのオランダ名の甲虫
招きたき声を求めて虫売場
虫売をやめたる家に三輪車
虫売は寡黙のままに去りにけり
虫売の虫を主役に座らせる
虫売りに鳴かぬ虫はと団地族
辻辻に虫売たちが立ち尽す
虫売や蝙蝠傘を立てかけり
虫売は八百屋店先茄子の横
虫売りや籠に挿したる野草かな
虫売は酒のにほひをまとひをり
虫売りの痩身つつむ孤影かな
虫売の風そよがせて来りけり
虫売の昼間の顔は別にあり
虫売の虫鳴かぬ間に売りにけり
虫売りの籠に共鳴くちちろかな
縁日や虫売りの荷に耳澄ます
甲虫も他国(ヨソ)もの入り来子達の目
虫売の妙な日本語話しをり
虫売の虫捕る顔もやはらかし
虫売りや大人冷やかし子は真剣
虫売のペットハウスで待ち合わせ
虫売の籠騒がせて鳴かせたる
虫売の昨日のひよこ売に似て
虫売の灯に唐桟とうなゐ髪
虫売の赫きウィンドウブレーカー
虫売りの声流れゆく露地の宵
虫売のつげ義春の漫画読む
虫売の気配爪弾きはたと止む
虫売と旅する夢を憶はるる
虫売の親爺は闇に溶けかかり
虫売りや団地に子らの少なくて
虫売の野と野の隙間より生れぬ
虫売りは雌雄同居を禁じをり
紙婚式ふたり虫売冷かして
虫売を兼ねて八百屋の女将かな
虫売に神父の耳のなほ澄みぬ
虫売の去れば雨降り出しさうな
虫売の軽トラの荷の虫の声
遠くより来て虫売のしづかなり
虫売の外人妻はてきぱきと
虫売りの売り残したる虫の聲
虫売の座り続ける無人駅
虫売のカフェの庇を借りにけり
虫の音をかそけく連れて虫売来
虫売りや足止めて聞く翁の居り
虫売の籠の中なる尻つつく
小さきかごちらちら揺すり虫売屋
虫売のことから文の始まりぬ
虫売も虫も疲れし店じまひ
虫売の仕舞ひしあとの闇静か
虫売の真つ暗闇のおまけ付き
虫売に回覧板を渡されぬ
虫売りや買わぬ客との虫談義
虫売に通夜帰りなる足留めて
虫売は鉦お囃子の尽きるとこ
虫売が口を開けば荷が黙る
虫売りの蜻蛉眼に似て道の駅
虫売や高さうな虫鳴き惜しみ
虫売の夜を付録に商へり
虫売の命を物の数へ方
虫売のこゑよく響く学校裏
饒舌な虫売の手の細さかな
虫売の灯に甃ほのかなり
虫売を源氏の君の末流と
虫売の聲競はせて暮れにけり
虫売が詩的感興の根拠なり
虫売を仕舞えば無口なる男
虫売りに思わぬ人気藁の籠
虫売の薀蓄ばなし振り出しに
虫売を他人に任せてばかりなり
虫売の去りて四方の大合唱
虫売の背に負ふ闇の喧し
虫売の負けず劣らず暗い過去
虫売の籠を揺らして鳴かせをり
虫売のからくり籠を見入る子ら
虫売を前に輪廻といふ言葉
虫売の過ぎし場所より夜が来る