兼題「干柿」__金曜俳句への投句一覧(11月22日号掲載=10月末締切)
2013年11月13日8:53PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』11月22日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【干柿】
干柿の吊せる空に虹も見ゆ
干し柿を干したる家があらまほし
干し柿や器量比べる軒の先
柿の種干すも干さぬも捨てられて
干柿の村バス停は遠かりき
吊し柿母を短く叱りけり
干柿や仲睦まじく祖母の訓
干柿になりし途上に削ぎしもの
不意の風に遅れて揺るる吊し柿
干柿の奥で寺山修司読む
食べぬ事我が拒否事項干柿は
老人干され干柿とぶらさがる
吊柿風は刃の跡消し去りぬ
吊し柿美濃街道を記念碑に
時間差に熟れてゆくなり吊し柿
詩に書かむ干柿だけが命持つ
目の前に数珠つなぎの干柿が
激つ風柿の簾を飴色に
朝靄にほのかに透くる柿すだれ
干柿二個伝言のごと紙の上
干柿に囲炉裏の煤の匂いあり
干柿や限界部落生き残る
干柿に残照映える軒端かな
いつまでも干されつぱなしの干柿
山国の入日をとどめ吊し柿
干柿や白寿に遠く母の逝く
干柿のバックミラーに揺れてをり
いつまでも夕日注がれ吊し柿
干柿の熟思の果ての容かな
柿簾にはかの風に重く揺れ
干柿や吹かるるものは猫の舌
干柿をアテに所望のウイスキー
干柿の母の甘さの隠し味
柿干してクラインガルテン朱に染まり
種のない干柿寂し独り者
干柿の剥き跡母が見へてくる
干柿の縄綯ふ指のしなやかに
資本論以前の世にも吊し柿
干柿の甘さ和菓子の基準とや
ブローチはせんたくばさみつるし柿
実直を見破られたり吊し柿
あの頃は手綯い細縄(コナワ)で吊し柿
干柿や床屋の軒に掛け置かる
干柿の呟きすらも甘くなる
吊し柿の影は障子に斜めかな
干柿の影に桂馬の飛び跳ねる
柿干して早暮れなん山の宿
火宅にも静けき日あり柿簾
干柿をすだれのように干しにける
柿を干す軒に西日の低く射し
干柿の群れの吊革より垂るる
干柿齧り種の数多を競ひ合ひ
吊し柿すきまの空に日は滲み
吊し柿日暮れは渓の湯町より
干柿の色を加へて生まれた地
五つごろいつものところで干柿食う
干柿や旨みたっぷり老いの味
柿干すや盆地の底の日を集め
干柿や幕開きたる楽屋裏
夕暮れの干柿カーテン赤く染み
吊し柿屋根葺きさんの煤気面(ススゲツラ)
渋柿を剥いて繋いで吊すまで
干柿にほどよき風の乾きかな
干柿の種に生気の残りをり
吊し柿縄ごと二連もらひけり
灰色の干柿加工後だらうか
干柿や家風家訓の残る村
干柿の蜜光りをり夕間暮
神輿飾りのごと古軒に吊し柿
干柿や考の齢に近づきぬ
干柿のねちゃりと甘き果肉かな
老猫の干柿の下大背伸び
不覚にも干柿のまま幾年や
乾くほど風に敏しき吊柿
作業衣と干柿吊るすバルコニー
干し柿を干したる家や住まわほし
干柿を揉む手の向こう昼の月
大黒の吊るす干柿庫裡の裏
干柿や媚びず離れずさながらに
柿簾潜りて山の駅舎かな
柿干せば命ほどよく透けゆけり
これやこの杉本寺の吊し柿
干柿の種は大きく醒めてをり
干柿や日毎闇夜の色交り
峻険の影の差したる柿すだれ
縁側の干柿の影畳まで
吾が魂は干柿ほどのサイズかも
稲縄で渋柿吊し寒を待つ
柿干すや一村の日を分け合うて
干柿は終始拒否して仕舞ひけり
窓辺より干し柿透し観る明星
干し柿を干したる家を思い出す
干柿の手間暇いまだ残す村
干柿の吊すひと窓世田谷線
柿干して彼方にけむる高野山
夫は夫妻は妻にて柿干しぬ
干し柿を奪い合いたる友逝けり
干し柿を干したる里やあらまほし
吊し柿日に晒されるふぐりかな
権力に吊るされ笑う干され柿
干柿やシャンソン流る日向あり
吊し柿ぎざぎざの空拡がりぬ
干柿や働き人として終へぬ
干柿にあまねく闇の行きわたる
干柿ののれんに透ける月の影
干してから楽しみねある干柿が
干柿のカーテン赤し秋の暮
手仕事の干柿つくり孫を待つ
干柿やこども一一〇番の家
村中の軒とて足るや市田柿
けふもまた実家のやうに柿を干す
干柿のところを得たる軒端かな
重くないかい竿に尋ねる吊し柿
干柿や右側の歯で味わへり
柿干すや朱に燃え上がる大観音
干柿の色もかたちも不揃ひに
昔にもむかしのはなし吊し柿
伊那谷を彩り静か吊し柿
干柿のひとつ星座に紛れ込む
干し柿や膾に入れて母の味
山峡の日暮は早し干柿の家
干し柿を作る手渋に染まりおり
柿を干す民宿なりて心地よき