兼題「切干」__金曜俳句への投句一覧(12月20日号掲載=11月末締切)
2013年12月17日6:14PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』12月20日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【切干】
切り干しが悪童見てる縁先で
切り干しや豪華に白し箱の中
カレンダー残る一枚切干煮
どれも和(あ)う酢味噌醤油と切干と
ひとりゐや切干し噛めば甲高し
切干のまだ仕舞はれず夕の星
切干の戻さるる程の月日かな
切干や使ひ古しの腕時計
踏んで居る切干髪の如くにも
切干もシーツも陽吸ふバルコニー
切干や三度乗り継ぎ無人駅
どの箸もまず切干に三世代
切干の何時の間にやら食べて居る
切り干しが隅に置かれしマーケット
山頭火に切干の句ないやうな
切干の香移し絵はミレーかな
切干やそれぞれ風に地の名つく
切干の横に座布団干されをり
切干に陽の匂ひ風の味
南洋の妻は切干嗤ひけり
切干と紅差す媼に出合いけり
切干を仕舞ふ日向のしじまかな
切干が忘れた頃に姿見せ
酒こぼす切干こぼす老の宴
切干のひと摑みとは多すぎる
切干や酢じょうゆにあと味の出る
切干の匂ひをつけて回覧板
切干やひと手間の味よく滲みて
山峡の切干宵の明星に
母が出す切り干しうまし牛の声
献立が戸口で分かる切干かな
切干の乾く音する夜風かな
曲げわっぱ切干の位置決まりあり
切干の酢の物が好き縄のれん
切干を大鉢に盛る帰郷かな
切干を戻す最中子が騒ぎ
含め煮の切干大根素朴なり
切干の常備菜とし七十路かな
切干や畳職人だつた父
飯あつし菜に切干しの六十路なか
切干を座して見守る犬と猫
切り干しや悪童遊ぶ縁先に
差し入れは切干大根定番に
からからと笑ひし風の切干に
切干の健康体の日焼けかな
颪来て切干ちぢみあがらせる
仮の世の土下座流行りや切干も
切干やだんだん雲が降りてくる
切干や童女の通る天の道
切干のふいに現れ家の角
切干や鼻水止まらぬ男有り
切干に風の道あり冬間近
切干や俳句脳は疲れ気味
切干や小さき百姓一揆の碑
切干や考の小言を反芻す
切干の一口食べて残す孫
切干や薄日分け合ふ峡の村
切干しや母に先立つわけゆかず
切り干しや腹すかしたるあの時代
切干の郷愁といふ味したり
切干といふ赤貧のなき世かな
切干の煮えておほむね母の味
切干を水に戻して長電話
乾物の消費期限は切干にも
切干のサラダ天ぷら漬物と
切干のくたくたになるあはれかな
切干やむかし厨は薄暗き
切干のどんぶりで出る合宿飯
切干や無口なおばばと酢じょう油と
鍋を振る皺だらけの手切干煮
切干の一品に酔ふ先斗町
小包の匂いでわかる切干かな
切干に黒雲とほく現れぬ
仕上げとて切干添えし海苔茶漬
切干の試されている晩年かな
完全に切干夢からシャットする
切干の母の形の縮みやう
切干の風統べてゐる山河かな
切干やおふくろ遠し故郷遠し
切干や吉野熊野へ続く径
切干を食んで浮かぶは祖母の顔
切干やあまり笑わぬおばばだった
切干や秋深みゆく寺の門
切干の細さも家庭の味のうち
切干を指で抓(つま)んで食べて見る
切干や黄昏てより雨もよい
切干や午後は日陰となるテラス
切干やあるはずのない陽の香して
切干や一人の酒を欲しいまま
勧誘員まづ切干の出来褒める
切干を煮る鼻歌の母なりき
切干の太ささまざま終の家
切干や国民學校の亡父の證
切干の味覚えずに嫁ぎけり
切干のちぢんで命のばしけり
切干を味わいしこと告ぐ歯科医
切り干しをむさぼり食いし兄たちと
切干や縁側に蟻の道ありて
切干と祖母の厨の匂ひかな