兼題「原爆忌、広島忌、長崎忌」__金曜俳句への投句一覧(8月29日号掲載=2014年7月末締切)
2014年8月15日3:36PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』8月29日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【原爆忌】
日も月もぼってりと朱原爆忌
垣根より真昼のニュース原爆忌
原爆忌どこまで悪になりうるか
原発の白い腹見せ原爆忌
傘一つ三つ四つ遙か原爆忌
祈る手のその皺深し原爆忌
ゆつくりと水一杯や原爆忌
逃水のまた遠のきぬ原爆忌
日時計のその時を差す原爆忌
森の気の深々として原爆忌
原爆忌卵の安き國に生る
炎天の翳濃かりけり原爆忌
また紅き千の糸玉原爆忌
うつ伏せの子を仰向けに原爆忌
乞ひ願ふ核エネ無用の原爆忌
武器持ちて戦はすまじ原爆忌
外は外内は内とす原爆忌
炎天に祈るばかりの原爆忌
戦死せる叔父の命日原爆忌
飢えたる記憶鮮やぐ原爆忌
日時計の地に刻む影原爆忌
フクシマの土とこしへに原爆忌
物憂さと暑さの中の原爆忌
Tシャツの肌に貼り付く原爆忌
弾痕なし石に影あり原爆忌
原爆忌空より下り来白き鳩
息継ぎのたびに水呑み原爆忌
原爆忌吾が子の寝顔確かめる
原爆忌絵文字大いに笑ひけり
戦争を知らぬ世代の原爆忌
店の奥暗き肉屋よ原爆忌
過ちを繰り返す世や原爆忌
備へてはならぬと聞こゆ原爆忌
カレンダー重き月なり原爆忌
水団の舌にざらつく原爆忌
蟬声のなかの静寂原爆忌
あつあつの広島焼きや原爆忌
残り二個晴れた二都市の原爆忌
原爆忌瀧の様なる千羽鶴
核被害永久に忘るなピカドンを
鍋の水吹きこぼるるや原爆忌
嗅覚の突然戻る原爆忌
丸木位里俊の画が有り原爆忌
鶴さえも折れぬ宰相原爆忌
鉄棒の錆びたるままや原爆忌
俺の世代で終わりかなと盛り上がる雲を見上げる原爆忌
原爆忌影なき群の通り過ぐ
黙祷の影の干上がる原爆忌
原爆忌小石枕にゴマフアザラシ
原爆忌まず言葉から消されてく
原爆忌一杯勉強したき日々
蒼天のネガ焼きのまま原爆忌
鳶舞ふ空午前8時の原爆忌
ぱんぱんの名刺入れなり原爆忌
泣くがごと汽笛長かり原爆忌
石切の音の途切れて原爆忌
原爆忌ヒバクシャとして振る舞へり
核を積む地球のままの原爆忌
原爆忌骨格似なば影も似て
背筋すこし伸ばす昼餉や原爆忌
原爆忌あゝ許すまじ原発も
母からのにぎり饐えおり原爆忌
旧友と会ふ原爆の日なりけり
仲間みな吾より若し原爆忌
剥ぐやうに脱ぐ原爆の日の肌着
原発の惨禍も続く原爆忌
総理殿原爆忌でも勉強しなさい
傷口に潮の滲みる原爆忌
蟻せつせつ行列長し原爆忌
鍋底にこびりつく焦げ原爆忌
もう一コマ進めばそこに原爆忌
地軸より湧き出づる声原爆忌
姿勢すこし正す昼餉や原爆忌
9・11 3・11原爆忌
どうしても肌から離れない原爆忌
拾い読む草も生えぬと原爆忌
地に沁みるここもここもと原爆忌
原爆忌鉈で刻みしごとき文
みな空をつかまんとして原爆忌
太陽がドームを焦がす原爆忌
やや割れて撞かれ響けり原爆忌
原発は原爆作ります原爆忌
町医者は蠅を叩かず原爆忌
千羽鶴折る手伝える原爆忌
大空の破れしはここ原爆忌
見せしめの爆破テロなり原爆忌
原子爆ぜ赤一色を語りつげ
外交は原爆忌から出発し
ごろ寝する身を恥ずるべき原爆忌
森の気よ御霊鎮めよ原爆忌
またベルを鳴らすのは誰原爆忌
ヘの字口開きて鯉も原爆忌
蝉鳴くは母の咽びか原爆忌
石叫べ残る人影原爆忌
手話しきりハートの形原爆忌
原爆忌地球丸ごとリセットす
原爆忌小石芯まで乾き切り
とどまりし雲一つあり原爆忌
ぽつぽつと話す母いる原爆忌
脚長き制服の列原爆忌
原爆忌黙祷の意味問へる子や
歳時記に二つ分かれて原爆忌
原爆忌二度殺されるはだしのゲン
気にすると体に毒よ原爆忌
今年また六日九日原爆忌
ほらっまだ大丈夫原爆忌
緑濃し夏深まりて原爆忌
ダイ・イン平和登校原爆忌
鳩の目の赫赫として原爆忌
モノクロの消えざる記憶原爆忌
分水嶺にはかに曇る原爆忌
幼き日アトムよアトム原爆忌
原爆忌サンダル越しに土の熱
原爆忌暮れゆく海を見てゐたり
原爆忌炎の芯のゆらぎをり
フクシマを加えて迎える原爆忌
原爆忌原子炉並べ横たわる
募金箱下げし若き日原爆忌
外灯もうつむき暮れる原爆忌
出戻りの鐘が鳴るなり原爆忌
フクシマを歩いてきたり原爆忌
原爆忌立ち止まりつつ流されず
電源が再び落ちる原爆忌
原爆忌柱時計のネジを巻く
原爆忌鶴は孕まず色褪せり
原爆忌打ち削除キー躊躇する
時刻止まり時間を刻みて原爆忌
からうじて途切れぬ瀬音原爆忌
我もまた原発に夢原爆忌
覗きこむ赤子の瞳原爆忌
水を買ふペットボトルや原爆忌
哀しかな子の知らぬ日や原爆忌
簡単に消去はならじ原爆忌
八時来る十一時来る原爆忌
灯籠に名を連ねたる原爆忌
人体に影響は無し原爆忌
小さき人からまつてゐる原爆忌
何万羽折鶴のこゑ原爆忌
地図の時差入り乱れたり原爆忌
原爆忌なれどきりなし厨事
畦道のぐにやりと折れて原爆忌
水を乞ふ手手手の惨や原爆忌
あぶく吹き蟹の歩める原爆忌
缶々の幽かな音や原爆忌
原爆忌水辺に我が子Vサイン
咲き代る木槿の花や原爆忌
原爆忌息荒くして峠越える
ジリジリと焼ける暑さや原爆忌
原爆忌総括の言葉宙に浮き
老いてなお忘るるはなく原爆忌
新潟に秋の気配や原爆忌
鎮魂の歌遠巻きに原爆忌
この青き地球に二点原爆忌
ハリウッド映画にゴジラ原爆忌
何だろう無くしたものは原爆忌
雨足を気に掛けてをり原爆忌
海原に雲湧き立つや原爆忌
戦止む尊き犠牲原爆忌
恋をする我が子知らずや原爆忌
流れ着くままごと道具原爆忌
【広島忌】
長濤に浮きゐて渇くヒロシマ忌
詩歌集「黒い卵」読む広島忌
子供らの歓声路地に広島忌
ヒロシマの忌や頭頂部濡れ初むる
広島忌カープの赤きヘルメット
8.6空を見上げる広島忌
広島忌リトルボーイの自爆テロ
煮卵の黄身やはらかく広島忌
広島忌までが大切本来は
音楽のはじめは無音広島忌
ふいに手をつなぎたくなる広島忌
川一面芥浮きたる広島忌
広島忌語り部にストロンチウム
広島忌螺髪のごとく並ぶ児ら
広島忌どこまでも影ついてくる
集会とデモのビラ来る広島忌
広島忌はだしのゲンも古希過ぎて
そば選むお好み焼きや広島忌
日めくりの隅に小さく広島忌
おとうとを姉が背負ひぬ広島忌
広島忌咥え煙草の歯の黄ばみ
レコードのコンサート聴く広島忌
広島忌「生ましめんかな」音読す
雲の峰怒りいづこに広島忌
スマートフォン操る指先に広島忌
ヒロシマ忌真夜の向日葵遁走す
道端の石ふくらみぬ広島忌
列なして蟻の緘黙広島忌
風死すとはまさにこのこと広島忌
広報に大江本置く広島忌
広島忌市長だけ死せりその縁者も
宣誓も空しく聴こゆ広島忌
鳥の目のみな遠目なり広島忌
幼子の手をとり祈る広島忌
【長崎忌】
残り二個最後の一個 長崎忌
長崎忌いつもの猫の見えざりし
爺婆の歩みののろさ長崎忌
長崎忌わが主何処へ行き給う
ロザリオに老婦の涙長崎忌
怒りたいときは怒れよ長﨑忌
あの道も坂ばかりなり長崎忌
大空の青やや深し長崎忌
今生に揺るるロザリオ長崎忌
真ん中の鴎は屍ナガサキ忌
長崎忌ファットマンの自爆テロ
浜風にくぐもる汽笛長崎忌
磯の子にヒトデ賜はるナガサキ忌
長崎忌あの日小倉は曇り空
長崎忌真昼は塩の白さなる
長崎忌「さん」を付けたい人である
長崎忌羽根のかたちに汗の染み
長崎忌風の大浦天主堂
にはとりが真水飲み干す長崎忌
許す目か巨大彫刻長崎忌
祭壇に蝋涙こぼれ長崎忌
照り返し強き坂道長崎忌
長崎忌市長と知事は無事だった
晴れ間から残り一個の長崎忌
鐘の音に泪流るる長崎忌
8.9耳をすませば長崎忌
橋の名を忘るることも長崎忌
絵硝子の光も影も長崎忌