兼題「海鼠(なまこ)」__金曜俳句への投句一覧(12月19日号掲載=2014年11月末締切)
2014年12月1日5:54PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』12月19日・1月2日合併号(12月19日発売)に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【海鼠】
海鼠なり素通りをする市場かな
ひとりごとつぶやきそうな海鼠かな
海鼠噛む毒婦の無口おそろしく
水清く者のはぐくむ海鼠かも知れず
口中に海鼠の逃げる老の膳
塩振つて海鼠に浮かぶ海の色
やさしさのあふれでてくる海鼠かな
海鼠旨し朝夕励む歯の手入れ
オーロラの国を旅して海鼠食ふ
海鼠いま安眠中を突かれたる
海鼠見る話せないことありし夜
俎板のうへに海鼠の打ち上がる
日曜の朝のようなる海鼠かな
うなぞこを知り尽したる海鼠かな
海鼠嚙むかつて少年だつた海
海鼠腸や啜り嗜む肴かな
夏眠から覚めて食われるナマコかな
腸だけが欲しい海鼠の躰選り
たれも居ぬ海におわします海鼠かな
酢海鼠や父母の仲良きころのこと
酒呑めぬ妻が海鼠腸めしにかけ
緊張の海鼠を薄く切りにけり
万葉の人も食べたの海鼠かな
海鼠切る酒の肴と思う故
料亭に上がる海鼠の慎ましき
引き潮の遊び疲れし海鼠かな
先人の勇気を称へ海鼠食む
問ふてみたき事多かりし海鼠かな
俎板の海鼠に出刃を研ぎ直し
お奨めのほどよき店の黒海鼠
海鼠かみゆっくり酒を傾けし
耳あらば海鼠と語る夜もあり
海鼠食べゴムに親近感覚え
強情に億年生きし海鼠かな
酢海鼠や酒銘柄に季語多し
足おろす場所無き程の海鼠かな
海鼠への箸の作法をわきまへず
海鼠かむ温めの燗だと亡き友が
この口は答えぬ口かと海鼠裂き
浅草や全国津々の海鼠どち
迷ひ無き男箸なり寒海鼠
ついでに妻も赤海鼠つつきけり
酢海鼠を躊躇ひ椅子去る男かな
世の終わり達観したる海鼠かな
誰だろう初めて海鼠食ったのは
波止場より戻りて二人海鼠噛む
いやいや妻に脅される海鼠かな
海鼠腸でめし食む妻の憎らしさ
転生になるまじきもの海鼠かな
手秤の婆に値踏みし海鼠買ふ
万年を思ふが人や大海鼠
あ、海鼠あ、ウルトラマンと練り歩く
沈思とはゆるりと海鼠すすること
何ひとつ喋ることなき海鼠かな
人間に出会ひし海鼠不仕合せ
噛み合ぬ話しながら海鼠噛む
気味悪き海鼠食う人気味悪し
朝市に海鼠の顔は怖きまま
半生を思ひ怯へて海鼠切る
愛されし秘密海鼠に見つけたり
突き出しの海鼠のやうな粗心かな
切り裂きし海鼠も文化遺産なる
こりこりと乾坤一擲海鼠食む
水槽の海鼠重たく掬ひ上ぐ
きらきらと水を吐き出たる海鼠かな
海鼠腸の味の不思議や旅の酒
左手の一升瓶や海鼠食む
晩酌の小さき海鼠を愛でにけり
今日からは海鼠時間で生きようと
英語塾海鼠好きな教師かな
寒海鼠「老人と海」大詰めに
海底にごろりと光る海鼠かな
大いなる海鼠家人に提げ帰る
誘はれて陸に上りし海鼠かな
素性など聞くこともなく海鼠食う
海鼠喰ふ唇歌ふごとくなり
御清めの酒の流れの黒海鼠
引売りの桶に海鼠と貝少し
入り海の海鼠にとほきエルニーニョ
自涜せし少年の日の海鼠桶
海鼠かみ歯医者予約日思い出す
海鼠かむ酸いも甘いもコリコリと
酔いしれて海鼠の如く眠りけり
海鼠突き竿先高く暮れ始む
早口でアカナマコアオナマコクロナマコ
悪友の悪食競ふ海鼠かな
海鼠にはなまこの生き方海静か
海鼠かむ太古の民の勇たたえ
わが怯え見透かすやうな大海鼠
鼠とは遠い親戚海鼠かな
海底に届く陽光海鼠跳ぶ
バットから海鼠つかみて夕支度
寝ていたら食われていたのナマコかな
海べりに生る民族の海鼠かな
母大正生れ海鼠が大好きで
俎の海鼠縮みて鯉ならず
海鼠腸が欲しい一念海鼠選る
海鼠噛み秋の夜長の茶碗酒
海鼠食ひ海の音聴く奢りかな
酢海鼠を食らへる口の怖ろしき
醜貌に不貞腐れたる海鼠かな
なぜ生きるかなんて思わない海鼠
美ら海の底にたゆたふ海鼠かな
あの海鼠試食した方どこの人
余生とは海鼠一本ほどの生
売人が海鼠を落し我が受け
生臭き色なほ動く海鼠かな
カリしゃきと海鼠かみえず妻を見る
荒海の底に貼りつく海鼠刺す