兼題「初鏡」__金曜俳句への投句一覧(12月25日号掲載=2015年11月30日締切)
2015年12月16日5:20PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2015年12月25日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
amazonなどネット書店でも購入できるようになりました。
予約もできます。「週刊金曜日」で検索してください。
【初鏡】
お帰りと朝帰りの人初鏡
振り返る姿を見せて初鏡
ショーウインド晴れ着細身に初鏡
深酒の貌の親しき初鏡
妻といふ古き楽器や初鏡
笑い皺一本増やし初鏡
父母のどちらにも似て初鏡
初鏡いまは紅引く漁師妻
初鏡をんな無言の業をする
母に紅引いたり我も初鏡
ささくれた指愛おしく初鏡
初鏡心細げな顔映し
友の幸祈る声出る初鏡
この顔で生きるほかなし初鏡
どうしたと我が顔に問ふ初鏡
初鏡今朝も素顔を映したり
初鏡父そっくりな頬冠り
眉太く真直に描く初鏡
襟足に戦ぐものあり初鏡
縫合の痕の癒えたり初鏡
紅皿のゆらりと回り初鏡
早起きのさも得意げな初鏡
独り旅クルーズ船の初鏡
眉少し細くしてみる初鏡
初鏡シミもホクロも増えにけり
希望まだ捨てぬ顔なり初鏡
妹に先を越されし初鏡
端座してすくと背伸びる初鏡
初鏡妻によく似てきた娘
年ごとに母と似る顔初鏡
空つぽの瓶の重たき初鏡
目の力抜けた病室初鏡
髭を剃るひと仕事あり初鏡
初鏡男一匹活きがよし
五歳児の喜嬉快楽の初鏡
白々と明け行く時待つ初鏡
切岸に佇つ貌なるや初鏡
造作なく眉引き終えぬ初鏡
初鏡赤子に我に片えくぼ
独り身に惜しき顔なり初鏡
祖母に紅さしてもらひて初鏡
明けはやく終の部屋なる初鏡
まつさきにいやなものから初鏡
初鏡わが髪型の太宰なる
お雑煮に顔綻びて初鏡
紅筆の先しなやかに初鏡
顔洗い髭当るだけ初鏡
まよひなき妻の背すぢや初鏡
初鏡長所それほどない人と
こと更に浮腫んだ顔の初鏡
初鏡ナチュラルメイクの紅を引く
あらためて年とりにけり初鏡
歩きつつ初鏡見る女かな
新品の紅に手間取る初鏡
これからの一年映すか初鏡
この部屋に彼女の記憶初鏡
口紅は暁のごと初鏡
初鏡魂消る顔の妣の居り
無駄なこととは言い出せず初鏡
初鏡妻と娘の経世論
ボトックスする決意する初鏡
この家の奥まで映る初鏡
初鏡けふが成人式の村
抽斗は二重底なり初鏡
病む母を少し写して初鏡
実家なる雨芳しき初鏡
初鏡寝坊の姉妹かしましく
初鏡偽りひとつこぼれ落つ
目を瞑ること増えきたる初鏡
初鏡昨日と同じ目鼻あり
初鏡いつもきまった猫に会い
初鏡朝からきりり日本髪
瓶にあるうちよと母の初化粧
奥底の焔(ほむら)鎮めて初鏡
初鏡化粧談議か妻娘
初鏡白髪に馴染む顔となる
年月に顔かたちあり初鏡
初鏡折りたたまれてポケットへ
初鏡奥より夫の呼ぶ声す
初鏡妻念入りに猫じゃれる
急落の老いの随に初鏡
猫すこし覗いて行きぬ初鏡
顔叩く善き事有れと初鏡
初鏡ちよつと歪みてゐるらしき
いくたびか手の止まりたる初鏡
子に寝癖直してもらふ初鏡
樟脳の匂う帯充て初鏡
さまざまな封印を解く初化粧
薙刀の長押にありて初鏡
新しき歯ブラシ咥え初鏡
初鏡若き日の君重ねつつ
母に似て不服顏なる初鏡
零さるる化粧水なり初鏡
初鏡娘が妻の世話を焼く
ほの見ゆる初々しさや初鏡
傾城の目許こさへに初鏡
初鏡次々分かる効用書
孫ともに可愛く映す初鏡
初鏡母に似てきぬ顎の先
老妻のあっさりとして初鏡
初鏡まずは寝癖を直したり
初鏡埃を払ふ指を先づ
初鏡夜行便バス洗面所
初鏡女の後ろに付くまじと
着物裾揃えて妻の初鏡
初鏡今日は微笑み絶やさずに
初鏡とうに朝餉の始まりぬ
わが顔のちとよそよそし初鏡
捨てられぬ妻の下着や初鏡
ヘルパーに梳られて初鏡
初鏡忙しなき日々過ぎし跡
家々にひとつ灯ともし初鏡
初鏡この黒子とも半世紀
酒止めて無明のまなこ初鏡
隣より母の声して初鏡