櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』２０１６年４月２９日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【目借時】
白寿母なに思うてや目借時
目借時ときめきひとつくださいな
目借時背中合わせの息づかひ
おさらひのピアノの止んで目借時
この下線いつ引きしかと目借時
レミゼラブルの目借時駅去りて
定年後の予定数多や目借時
なるやうになるさと答え目借時
繰り返し同じ文読む目借り時
目借時好きと言えれば楽なのに
目借時インクの薄きサインペン
目借時家庭菜園発芽有
読経の声もはるかな目借時
図書館に日がな一日目借り時
付け過ぎの季語を切り捨て目借時
毛脛にも蟻這登る目借時
象の鼻左右に揺れる目借時
偶にしか開かぬタバコ屋目借時
冗談に反応遅き目借時
目借時さかさまに押す認印
ほつぺたのどんどん伸びる目借時
薄暗き食堂街の目借時
ぬるま湯で便秘薬飲む目借時
目借時財布より転げる五円
目借時ふりして君の肩を借り
大勢の人ゐて孤独目借時
目借時うす目している伊達メガネ
乗客のバスと揺れたる目借時
目借時神もジャンパー置き忘れ
箪笥からシャツの袖垂る目借時
人のみな玩具に飽きて目借時
善人の顔に疲れし目借時
ざりがにを掴めば暴れ目借時
屋上の敷布波立つ目借時
「回送」のタクシー並ぶ目借時
電気ポットの口開けしまま目借時
目借時太古の蕾罅入りて
例外のなんかありそう目借時
釣り人の竿先下がる目借時
目借時介護ベッドでする全て
若冲のとりけものならまなこ貸す
静かさや鯉跳ね落ちる目酌時
影を得て白さ増す壁目借時
味抜けたガムを転がす目借時
目借時蛙音無く跳んでいて
食すればうとうとなりし目借時
挽肉と思考をこねて目借時
目借時主に猫なる店の番
目借どき電話鳴らずばひと眠り
ものうげに孫に本読む目借時
われ思ふ故に君ゐる目借時
緑茶よりコーヒー欲す目借時
果つることなき打撃戦目借時
あれもこれも忘る買物目借時
目借時電源切れた電気ジャー
片こひを面白がりて目借時
目借時レコードの針降りたまま
日曜の二重瞼や目借時
添い寝して読み聞かせする目借時
秒針のスローモーション目借時
ピースてふ名の煙草あり目借時
気がつけば乗換え駅や目借時
無人駅の椅子一脚目借時
対岸の傾く水車目借時
読みながら胡蝶の夢や目借どき
目借時温もりながら舟漕ぎて
目借時栞を挟む文庫本
耳元に神の囁き目借時
目借時テレビは不倫批判せり
どっかりと畦に大尻目借時
白杖の目借る蛙とともに鳴く
水音のささやきに似て目借時
目借時監視カメラが青覗く
夢の絵を赤く塗りけり目借時
老練の車掌のこゑも目借時
なんらかの薬飲む人目借時
目借どき本を閉じたり開いたり
甲子園ゼロ行進の目借時
からっぽのテッシュの箱や目借時
目借どき珈琲カップをそっと置き
悲嘆して蛙にせがむ目仮時
目借どき若き夢みて過ごしてふ
田の面には風あるか無き目借時
ゆらゆらと私も犬も舟を漕ぎ
子ども来て川に石投ぐ目借時
目借時三日剃らざる髭固し
めかり時ゆいてそのまま帰り来ず
庭球の音が間遠に目借時
妻の膝借りて極楽目借時
みちのくは物不足江戸目借時
ぼんやりと長芋擦るや目借時
山鳩の羽繕ひして目借時
仕残しをふと思い出す目借時
採っても取っても取っても春の草
終はらざるボードゲームや目借時
警備員目の疎かに目借時
しづかなる工場群や目借時
目借り時前のめりつつ運転す
点滴の一滴重く目借時
飼い猫の干した布団の目借時
目借時地軸ふるへるやうな日も
右折車は路上教習目借時
蚤の市店長大あくび目借時
チャップリンどこか哀しき目借時
推敲は引き算なれや目借時
目借時今日もパスタを茹でてゐる
師の教え子らは静かの目借時
読み込みし書物閉じれば目借り時
目借時降りる駅過ぎ一人旅
老犬の糞ふうわりと目借時
子を叱る声ものどかや目借時
グラウンド声も灯も消え目借時
耳元に虫の羽音や目借時
この文字に蕩けているか目借時
目借時加害妄想だつてある
車座に画紙の配られ目借時
目借り時メガネづらしてあいさつす
作業衣の日の匂ひして目借時
武器取りて一万年の目借時
七十路昨日も今日も目借り時
白き杖目借る蛙に道を聞く
昨年と同じ法話を目借時
摺り足でシテが舞台に目借時
目借時偲び泣いてる人もいる
徳利より零しておりぬ目借時
トーストの焦げるにおいや目借時
オムレツにタルタルソース目借時
仕舞湯の富士のペンキ絵目借時
目借時琥珀の蟻の身じろげり
らふそくのほのほの細く目借時
水ぽたりぽたり厨の目借時
目借時ほほにシーツの痕つけて
点眼のすぐ乾きたる目借時
ベストほどき心ほどける目借時
船べりを波繰り返し目借時
やはらかに闇の広がる目借時
考へる葦と思へず目借時
デパートの屋上にゐる目借時
目借時明日のことなどケセラセラ
新宅の日当たりのよき目借時
戦乱のいや増し続く目借時
エッシャーの水路の人も目借時
赤色の紙に散るなり目借時
畦道は黄の道となり目借時
ダレヤメのつい過ごしたる目借時
目借時阿吽と欠伸せし仁王
目借どき列車の旅はなおさらに
心なき国会中継目借り時
廃坑の路地に傘干す目借時
ダービーの百万の声目借時
物干しの空少し晴れ目借時
戒壇巡り終へてこの世の目借時
長椅子に有り余る日や目借時
目借時かわず音無く跳び跳ねて
欠伸出る俳句講座や目借時
哲学書うしろから読む目借時
バス停の椅子に坐れば目借時
なんでもない時が大切目借時
まな板を水の流るる目借時
どこまでも霞む連山目借時
目借時幼き母のうたふ歌
退院後することなくて目借時
幾たびも遇ふ隣人や目借時
目借時大声出す子制する子
漢籍に読めぬ字ばかり目借時
目借時部活の汗よペダル駆る