兼題「日向水」__金曜俳句への投句一覧(6月24日号掲載=2016年5月31日締切)
2016年6月9日6:10PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2016年6月24日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【日向水】
民宿の名入り手拭ひ日向水
日向水少し濁りても青空
エネルギー達の集ひや日向水
やはらかな母の匂ひや日向水
日向水横目に砂浴ぶ野良すずめ
温水器てふ日向水製造機
日向水ブリキの金魚置き去りに
日向水ラムネの空を映したり
たちまちに湯気きもたちて日向水
またしても猫が覗きに日向水
日向水閨秀作家住みし路地
日向水真昼の星に芯のあり
明るくて貧しき日々の日向水
ぬくぬくと夢見ていたし日向水
日向水幼の飽いて凪となす
ゆらゆらと日向水さえ湯気のぼり
日向水かつて遊郭ありし跡
日向水京の路地裏石畳
日向水道案内は猫となり
夕星を迎へて老いし日向水
日向水手の確かなる療法士
少年のひと跨ぎする日向水
幼の日桃の葉浮かべ日向水
日向水捨てて湧水汲み直す
日向水子ら掛け合いし叫び声
信楽にメダカの泳ぐ日向水
日向水猫の飛び出し気に掛かり
日向水またゆるゆると独りなり
レンジャーの色を違へて日向水
水音の柱の陰の日向水
日向水肌着隔てた恋なりき
鳥影も無し屋上の日向水
日向水使わず返す庭の隅
覗き込む顔みなゆがむ日向水
小さき庭小さき縁側日向水
ジーンズの娘跨ぐや日向水
自転車のタイヤが日向水を浴び
異なりし器が三つ日向水
一人住む祖母忘れたる日向水
星雲を抱いて眠らす日向水
両腕は上下同時に日向水
ちんぼこを見せびらかして日向水
日向水たいした努力などもせず
日向水畑にまきし生き返る
日向水竹鉄砲で吸い撃ちぬ
日向水アメンバーも住まないね
花びらが底にゆらぐや日向水
人間も動物なりや日向水
山小屋のドラム缶風呂日向水
夕暮れやまだほの温き日向水
オシッコの温度と同じ日向水
キュウと音聞きながらキャベツ剥く
陽も翳り母の呼び声日向水
日向水まだ小魚の生きてをり
日向水野鳥の井戸端会議かな
日向水心の闇はうづくまる
日向水名前書かれし古盥
日向水ほとりに泊まる草の舟
日向水目覚めし嬰の湯浴みかな
日向水路地裏巡り一人旅
水遣りに引けばホースの日向水
はづかしき躰に浅し日向水
飼い猫の味見も済みて日向水
日向水ぴしりとタオル鳴らしけり
日向水むすべばぬるし母の里
日向水けふのあれこれ溶け込ませ
半ドンの午後を揺蕩ふ日向水
物干に繦はためき日向水
日向水なるべく踏まぬ様にする
半減期思ひ浮かべし日向水
日向水水底にある雲動く
失恋の涙あふれて日向水
石くれもゆらぎ残さず日向水
日向水庭の真中のがらんどう
日向水浴びて昭和の子となりぬ
日向水今日はわが子の一周忌
日向水晴天続きぬくみ増す
日向水より晩めしは何か問ふ
日向水星の映りて日は高し
面に映る梢そよげり日向水
日向水空と雲とを映しけり
日向水鳥寄する手のみなしづか
お日様の恵み優しき日向水
唐突に逝きたる山家日向水
日向水明治の母の伸子張り
コンパスのあてなき旅よ日向水
シスターの跳び越えてゆく日向水
日向水盥の縁の雀どち
幼児(おさなご)の如露を傾け日向水
日向水母思ひ出す伸子張り
反戦の足音ひそむ日向水
日向水温もりに想ふ祖母の愛
叱声のぴりりぴりりと日向水
日向水浴びる兄弟肥えてをり
プールより上りて背を日向水
一芸の家庭菜園日向水
日向水さめて産湯となりにけり
大切な金魚のための日向水
試合負け引退決まり日向水
日向水手杓で花にそっと掛け
日向水また次の日も日向水
日向水して家籠る暑さかな
日向水賞味期限を確認し
ひと遊びさせてそのまま日向水
子らのため木陰に置くや日向水
日向水ポジティブポジティブ湧き出づる
一日かけ角の取れたる日向水
虹見んと日向に水を撒き上ぐる
期待ほど温くはなくて日向水
今日の日の続く果報や日向水
屈む子の尾てい骨浮く日向水
旅終える濁り増したる日向水
ベランダに置き忘れたる日向水
さかしまに長屋映して日向水
みどり子の珠のごとくに日向水
日向水浴びればロビンソン・クルーソー
水皺の影の揺れゐる日向水
日向水昭和の手動洗濯機
反戦のデモ見送る日向水
雨後の犬日向水飲む覚悟なり
寡婦の家に豆手ぬぐいや日向水
子らの声過ぐる静けさ日向水
こめかみのあたりの軋み日向水
日向水八センチなる足つけて
吾温み彼も温めし日向水
居るだけの仕事もありし日向水
日向水砂もて磨く杉丸太
日向水雲の流れを掬ひ上げ
日向水底で動かぬ地虫かな
プランターのパセリが覗く日向水
日向水オプティミストがまた明日
日向水吾子が手にする浮き袋
手をつけて日向水なる淡海かな
変化無きストロンチウム日向水
日向水おもちゃの潜水艦浮かべ
助手席のペットボトルの日向水
自転車の撥ねたる泥の日向水
日向水につまづききつつも裏木戸へ
水たまり日向水さえ蒸気立つ
日向水あと一章のミステリー
日向水姉にちんぼこさらしけり
日向水褌に似る禅の文字
日向水やや大振りの金盥
日向水蒼穹沈置真昼星
日陰から来て手を漬す日向水
炭酸水持て余してや日向水
日向水嫌ひな妣が映りをり
日向水盥の底に空映し
日向水光を集めさざめきぬ
日向水くらしつましく顔洗う
晩年の誇りのごとし日向水
日向水シャボンのにほひ昼下がり
庭先に日向水して昼寝かな
日向水鳥語に僅か震えたり
おつかひの子の帰り待つ日向水
遠き日の母の湯浴みや日向水
ほろ酔へる身に沁み渡る日向水
日向水浴ぶうぶすなの緑児よ
きんととが盥に浮ぶ日向水
日向水果てに喧嘩の幼かな
日向水陰りてなおもあたたけし
雲の上を笹舟の往く日向水
日向水獣園ひたす眠りかな
葉を浮かべ昨日のままの日向水
留守の家風なき夕の日向水
空青く花咲き鳥鳴く日向水
祖父の癖子によみがへる日向水
鈍角のプリズムとなり日向水
迷ひ鳥水浴ぶままの日向水
ゆふぐれの鴉は空へ日向水