兼題「厄日」__金曜俳句への投句一覧
(9月30日号掲載=2016年8月31日締切)
2016年9月2日7:28PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
選句結果と選評は『週刊金曜日』2016年9月30日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【厄日】
借り物競走紙の飛び散る厄日かな
披露宴果てたる二百十日かな
二百十日今上の別れ近してふ
カタカナで書くつめたさも在り「ヤクビ」
壁の翅つまみて放る厄日かな
篝火の艫へと猛る厄日かな
包丁の切れの良すぎる厄日前
新瓦誠眩しき厄日かな
こうなれば鎮まらずとも良し厄日
溶接の火花飛び散る厄日かな
青き実の色づき初むる厄日かな
巡礼に借り傘渡す厄日かな
二百十日心に風は吹き止まず
峠への道痩せ二百十日かな
待ち針の桃青黄色厄日かな
道の駅厄日の野菜濡れしまま
何事も無く夕暮れて厄日知る
遮断機の揺れつつ下りる厄日かな
じっくりと土鍋で炊いていて厄日
熱き日を振り返りての厄日かな
二学期の初めのことを厄日って
ひらがなで書くあたたかさ在り「やくび」
厄日前祈る地蔵に水跳ねる
電車には寝癖の映る窓厄日
あの人と喧嘩も下の厄日かも
まだ低き夜間飛行や厄日過ぐ
どす黒き夕焼を見る厄日かな
高圧の電線の鳴る厄日かな
空青く雲流れゆく厄日かな
堰からの放水止まぬ厄日かな
警報に眦下がる厄日かな
深爪は誰のせいでもない厄日
この子らは目を輝かしおる厄日
厄日とて君生れし日を祝ふなり
昼間から銭湯にゐて厄日なる
真夜中の猫のいさかひ二百十日
来ては去る二百十日厄日かな
たしなめて厄日の猫に逃げらるる
点滴の落ちる音のみ聴く厄日
厄日とて酒吉日とても酒の日々
釣堀に二百十日の影も無し
二階建てバスが橋ゆく厄日かな
忘れ物ごまかしきれぬ今日厄日
たおやかに波打つ田の面厄日過ぎ
怪しげな二百十日の雲の湧く
秒針の音と鼓動の厄日の夜
ローマ字で書く迷いも在り「YAKUBI」
足裏は厄日の熱を持て余す
大見得を切つて厄日の勘九郎
地を這ふもの天上を向く厄日かな
厄日来し明るさに目覚めたときは
粗忽者二百十日に生まれたり
野猿鳴く古墳の森の厄日かな
厄日過ぐ過度な心配して無音
賑やかさ去りて厄日の予報あり
行きずりの街のスナック厄日かな
落とし物影を失う厄日かな
鋤鍬の武器のごとくに厄日かな
プロポーズ木から落ちる猫厄日
砂時計天地返して厄日かな
終電車時刻通りや厄日無事
電話待つ犬からあくびして厄日
花剪つて包む厄日の新聞紙
真向かひの岬の細く厄日かな
はねたくて鯉のはねたる厄日かな
切り忘る枝を揺らして厄日かな
蔦の茎骨のごとくに厄日過ぐ
ソファの色決めかねてゐる厄日かな
ワンカップ木椅子に光る厄日かな
家出せし猫戻り来る厄日かな
集(すだ)きたる鳥の話も厄日かな
顎出して亀は厄日を知るごとし
今朝の茶のよく色の出る厄日かな
雨や風210日やっぱり厄日なる
信じれば厄日に囁く夢の色
登校の子らの厄日のヘルメット
東吹く雨の合図の厄日かな
夢の夢幻の跡厄日かな
穏やかに二百十日の夜も過ぎぬ
神獣鏡磨く漢の厄日かな
大嵐二百十日より早く來し
窓抜けむ厄日の音や校了日
鳩の目が他人行儀になる厄日
咳ひとつ厄日の風を聞いており
厄日なり何も見えぬわ聞こえぬわ
寄席果てて厄日の夜の太鼓かな
厄日てふ季語を狂はす温暖化
自慢げな農夫の笑い厄日後
忘れたき物みな飛んでゆけ厄日
路地裏に風の大きく厄日過ぐ
草礫頬に当たりし厄日かな
厄日過ぐ勤務評価をしてされて
飛ばされし傘どこまでもゆく厄日
家を見ず二百十日も飲んだくれ
厄日あけ田は静かなり決断す
ぶら下がる物皆揺れし厄日かな
田に声のゆき交ひ二百十日かな
湿度計確かに示す厄日かな
乾物屋早仕舞いする厄日かな
名前付く厄日の風の肩すかし
鼻の孔風通しよき厄日かな
信心を捨て立ち向かふ厄日かな
我が恋の行方知りたる厄日かな
田面黄金に褪せ初みて厄日なり
盆地にて海かぐ犬とゐて厄日
庭ぢゆうの衣まぶしき厄日かな
危の文字のトラック追って来る厄日
コンテナの満載さるる厄日かな
厄日かなプラスの螺子を回しふと
血の色の爪に透けたる厄日かな
艫綱に二百十日の波の音
厄日だと新聞読めぬ様な気が
門口に濡身散らかす厄日かな
雨戸少し叩いて風の厄日かな
厄日には新鮮な風欲したり
用兵の基本に中国厄日過ぎ
安心も心残りもあり厄日
積まれたる石の危うき厄日かな
予報士の古傷疼く厄日前
厄日なり雨に降られた一張羅
忽然と喝采浴びたる厄日かな
塹壕の跡に屈める厄日かな
吹く風が生きよとささやく二百十日
朝礼の訓話は二百十日なり
何がなし吹き残したり厄日過ぐ
晩鐘に祈りし明日の厄日かな
腰高の客船もやふ厄日かな
混ぜ切らぬ醤と辣油厄日なり
厄日でも知らねば今日は青き空
錆止めの塗料の匂ふ厄日かな
備蓄せし水を確かむ厄日かな
黒犬が水飲んでゐる厄日かな
身体中のねじ締め直す厄日かな
貸しボート出払つてゐる厄日かな
シャチハタのわが名掠るる厄日かな
厄日けふ南の海の低気圧
表紙絵に夕日たたずむ厄日かな
雲上の夕日神神しき厄日
角部屋に翅閉ぢてゐる厄日かな
厄日去る菜桶に水の荒使ひ
厄日前台風わんさと押しかける
わらひをる街頭テレビ厄日なり
顎紐をきつめに結ぶ厄日かな
鯉の口腹まで見せる厄日かな
厄日過ぐ糊を効かせしシーツかな
週一度カレーの日なる厄日かな
遠く遠く想ひはしらせ二百十日
知ってれば厄日知らねば佳き日にも
靴箱に軍手の詰まる厄日かな