「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』２０１６年１１月２５日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【霙】
寂しさの吐息のやうに霙ふる
片恋に雨のふりして霙かな
霙るるやゴジラの泣きてゐる国土
半透明霙もあなたの言ひ訳も
みぞれけりファゴットはもう止んでいる
みぞるるや返事はなくて相傘に
旅心溶けだしてゐる霙かな
初みぞれ鳥の言葉も湿りをり
霙とは何でこんな字書くのかな
人ごゑの霙の中に沈みけり
融けもせず積もりもせずに霙降る
病み細る妻の身体や霙降る
一人芝居春吉橋に霙降る
駅を出て霙は雪に主計町
雪になれぬ哀しみ負ひて霙降る
みりん切れ買ひに出でばや夕みぞれ
霙降る憲法の危機集いたり
出不精をさらに拗らす霙かな
夕霙八百屋の店主猫背かな
霙降るいつものよふに犬散歩
霙降る道を急ぎて終電車
銃痕の旧官邸や霙きく
来し方や霙はしとど降るばかり
駅ビルの霙れて昼の独り酒
霙夜は寒いからなの抱いて寝て
路地にあり靴跡ふたつ朝みぞれ
重たげに落つる霙となりさうに
来年の町議の話霙降る
商談の上手くいかぬ日霙空
みぞるるや明日はなきかと傘を差す
海峡の岬のたわみ霙降る
霙るるや風致地区のち精神科
ネオンつく雨が霙にかはるころ
筆置きぬかそけき外のみぞれかな
霙空提灯誘ふ縄のれん
先斗町夕映えかすめ霙降る
降り止まぬ霙や素振りする補欠
霙降る旅の美空に神が居る
水色の長靴あれば霙でも
夕霙妻の帰りし靴の跡
色もなく交わす言葉の霙たり
出張でかつて来た街霙空
霙るるや窓に方程式を解く
霙打つ試練の中のサラリーマン
霙るるや盲導犬の尾の賢し
空仰ぐ頬たたかれて夕霙
古りゆきてガラス歪める霙かな
パチンコ店のまへを明るく降る霙
友見舞い傘に重たき霙かな
相合傘あたたかき手に霙かな
霙降る街に流るる夕餉の香
霙るるや巣箱に戻る二羽三羽
霙るゝや旅路の果つるラブレター
妻狂う夢や霙の中で覚め
霙るるやアンデルセンはペンを執る
霙降り草の一徹尽きんとす
肉屋には肉屋のひかり霙降る
革靴も等しく疲れ霙けり
霙分隔てて歩く記念日や
霙るるや名札つけたる鳩の足
みぞるるや路上ライブは恋の唄
みぞるるや恋しき君に眼鏡拭く
霙降る見つめる先の闇夜かな
相槌の優しき男霙降る
青く立つ我が野菜畑霙降る
人生きるゆえの霙や核荒野
蝋燭の色の蝋涙霙の夜
霙るるや伊能忠敬記念館
藁を打つ外は霙か飯仕度
振り向かず犬歩み去る霙かな
愚図る子を負ふて車窓の霙かな
霙降る空の彼方に空ありて
霙空童話の様な気分あり
ジャンバーの裾を滴る霙かな
霙降る天使のこゑを消すやうに
指先でひしげて霙の分かれけり
タクシーと呼ぶ手に触れる霙かな
霙ふる終点駅も行く道も
雨傘の重み増しゆき霙ふる
師の墓に砂塵のように霙降る
敦賀行き霙がバスを降りる時
精肉のパック開きし霙るる夜
みぞるるや火の見櫓にホース垂れ
霙るゝや襟立てゆくも家遠し
手に受けて手に浸み透る霙かな
さよならと霙消えゆく窓越しに
新幹線止まりし窓の霙かな
夜が来て松の向かふは霙かな
霙の死をフロントガラス受けとめる
霙ふる賞には縁のなき暮し
鼻の先睫毛の先に夕みぞれ
霙降る集いし人ら笠地蔵
銅像の頬撫でてゆく霙かな
夕霙レデーファストと言ふ爺
トランプ氏こきおろす卓外霙る
点滅の急かす霙の交差点
霙受くる椀なめらかに欠けてをり
無人墓霙降る降る限界集落
みぞるるや上り框に猫の跡
弔いの棺にかかる霙かな
霙打ち流木阿嬌を包めるや
みぞれの夜夕餉は温き囲炉裏鍋
百匹まで数えてをりぬ夜の霙
痩せさらぼふ古灯台に夕霙
赤松の肌華やかに霙霽る
冬桜霙の中を立ち尽くす
怒り満つフロントガラス霙うつ
ラーメンをすする窓辺に初霙
折り畳み傘に霙のやや重し
まつさらな昨夜の想ひを霙かな
記念日に揃って囲む霙鍋
年老いて思わぬ霙に足とられ
鼻水を出す稚児祝ふ霙かな
駅伝の汗を凍らす霙降る
降り止まず海になりゆく霙かな
闇深闇深し議論は尽きず霙降る
幾条か通り違へば霙なり
都鳥の動かぬままに霙けり
襟巻きも傘も貸します朝みぞれ
霙るるや見番通り裾端折り
漁ありて男霙に笑いけり
袖振りの友と一盞みぞれけり
霙かな救急車の音に目が冴えて
起きぬけの息の白さや霙降る
道はるか閉ざして霙降り止まず
街灯や人は霙を受けいれて
赤ペンキ雨は霙に鉄の橋
霙ふるわづかに淀む雲の下
霙降る雲のまにまに月にじむ
コスモスの種閉じたまま霙雨
カーテンの開かぬ家や霙降る
ひとひらの集まつてゐる霙かな
集落の涯てて山路の霙かな
外付けの非常階段霙ふる
霙るるや交換日記不意に絶え
酒場しか逃げ込む場所のなき霙
門兵の肩怒らせて霙ける
雪下駄に霙つのりて道長し
縄のれん頬なでくるる霙空
蜂起潰ゆ佐久への道の霙るるや
孫生まる霙降りしも晴れ心地
近江町市場に出会ふ霙かな
茶屋町は霙降りをり暮れにけり
セックスを思ひ出す夜の霙かな
明日もだるまは立たざらん霙あり
みぞれ降るだだ湯りして空を見る
霙止むまでコップ酒三杯目
君に遇ふ霙の街の喫茶店
海峡の雲の分厚き霙かな
霙るるやピアフ流るる純喫茶
霙れたる荒野を白き馬の息
水揚げの魚かがやかす霙かな
北上の鉄路の窓に霙れけり