兼題「流氷」__金曜俳句への投句一覧
(2月24日号掲載=2017年1月31日締切)
2017年2月3日5:36PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2017年2月24日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【流氷】
流氷の折り重なりてきゅうと鳴く
雲深く流氷深く混信す
知床の空を軋ませ流氷来
流氷の退路断たれて迫り来る
張りつめた流氷の原境なし
流氷へ向ふ光の翼かな
流氷の消えてコタンを出るといふ
流氷盤うすむらさきの危さよ
これだけの流氷あればキングかな
代々の地の流水の鉄くさき
流氷や弓手に銛を構へをり
流氷のささめき寄せぬ漁師小屋
流氷の上にのつかる老人よ
流氷の群れなして人喚び起す
流氷や身に覚え無き風の針
胡獱らしき動き見えきと流氷に
海原に鴎わき立つ流氷期
旅の目に流氷のただ美しき
流氷を見たし南国へも行かむ
流氷を押す流氷が押し返す
流氷のことは知らない昼寝かな
誓子の句こえる句知らず流氷よ
流氷の来る夜は風も海も哭く
流氷やツングースの末裔(すえ)我もまた
流氷やアイヌの村を滅ぼして
尖る風大流氷を割りて押す
流氷の連なる際の一番星
流氷や色無き風を鳥一羽
流氷のうす紅色に染まりけり
流氷や友を求める誘い道
流氷の罅より日差し潜りをり
流氷の風をまともに玻璃の家
想ひ出も薄る流氷ゆるむ頃
流氷や四方八方白づくし
健さんの背懐かしく流氷来
流氷やタイガの星は如何ばかり
流氷や大鷲は餌奪ひあふ
流氷の斜里岳の黙(もだ)目指し来る
流氷と白き原野の境なし
泡沫を消す流氷の集ひかな
流氷や一気に飲み込む夢を見る
流氷やアムール川は誰そ故郷
流氷だけが見どころ無医の村
流氷や雲広がりて沖の陰
流氷は大魚のごとくうねりたり
流氷はおそらく人のことが好き
流氷の駅舎廃止のされるよし
流氷を掻き分け巡る船に乗る
分校の素振り千回流氷期
流氷やごつごつした手の温かさ
流氷や母の手の皺増えている
流氷の沖へ去りゆき船一艘
流氷や白チョコかけら重なりぬ
流氷の鳴れば日暮るるオホーツク
流氷の間に生まる氷の子
流氷の耐えきれずして割れにけり
海鳥の群舞流氷連れてくる
胸騒ぎする音なして流氷来
清々し流氷の下我らが世
月の夜流氷静かに接岸す
流氷を風が運びし温暖化
流氷や押されつぱなしの日本
クリオネを運ぶ流氷愛しけれ
流氷や迫り来る危機静かとも
閑かなり流氷を見て雲を見て
冥海に意志ある如き流氷群
流氷に凱歌の力ありて消ゆ
流氷や海豹の子は母を恋ひ
流氷来スナック「風」にスイス人
流氷の果てる日ありやオホーツク
流氷や白き光の沖にあり
流氷の一つひとつに乗る日かな
流氷や凛として立つ佐多稲子
流氷や邦の未来の斑めり
流氷や二国の解れ縫うやうに
流氷を遥かに擱いて巡視船
流氷やオンザロックの盃重ね
流氷は寂寥の女神の城ならむ
流氷を浮かべ琥珀の海に酔ふ
海遠く流氷の先あらはれり
忽然と流氷のある白き朝
割れてより流氷らしくなりにけり
灯台や流氷亡ぶとき光り
流氷のやけによろこび押し寄せる
流氷と白を共にす巡視船
流氷の旅す知床海の道
流氷の去りて大陸移動説
流氷は闇夜の中に割れきしみ
護岸に遅速のありて流氷初日
流氷やわが身に街のにほひあり
流氷や何かの生まれつつ来たる
流氷を見にゆく人の猩々緋
流氷やアムールに春來るらし
流氷の割れて親しき友逝きぬ
流氷や漁協の通ひ箱かさね
オジロワシ眼下に流氷統べて飛ぶ
一湾の一夜で消えて流氷来
流氷や炯々と星散らばりぬ
流氷や滅びに集ふ物の声
先生は流氷の地へ嫁ぎけり
白きとも蒼きとも流氷の塊
流氷来蒼は妖気を含みをり
流氷のぶつかつてゐる映写幕
流氷の空なりジェット戦闘機
流氷や吾は外地の生まれなり
流氷の流謫の岸ははるかなり
冥海に流氷浮べ村眠る
流氷の息をしてゐるごと動く
誓子見し宗谷の荒き流氷へ
流氷のライトアップという受難
流氷のあのひしげしは去年の吾
流氷の下や昆布の揺れをらむ
流氷を見たくオホーツク旅に出る
蟹食はな流氷の事よそにして
はるばると来て流氷の谺かな
流氷の群れや真下を行く魚
流氷を観る客海の暗さ見ず
流氷とラーメン啜り別れけり
流氷や胸に呑み込む言葉あり
流氷やアザラシの髭氷りけり
流氷のグラスに遊ぶ宗谷かな
流氷待つオンザロックを飲みながら
流氷の海を消し去る強さかな
流氷の宿のロビーの露西亜地図
黒竜江流氷白く吐き出す
流氷を見つむ昔の吾見つむ
流氷は声を忘れてうねるのみ
流氷や偶に魚が飛び跳ねて
冬かもめ蓮葉氷に一羽づつ
流氷に小動物の小さく見ゆ
流氷に弥生の浜の耀けり
流氷の今日はセンター試験です
流氷のコップにゆるり刻を溶く
流氷や白き封書は閉じしまま
いざ介護リタイアの果ての流氷期
流氷原遠つ国まで空蒼き
流氷や北方領土ままならず
流氷のまつすぐすぎる思ひかな
紅ひいてやる母の目に氷流る
流氷ツアーもちろんクリオネ見られます
流氷や森繁節を真似る人
流氷の浮かびし沖に船の翳
張りつめて過ごす時あり流氷期
海明けの千島を挟み旅の唄
流氷割れ悲鳴に聞へしきしみかな
青白き炎を纏い流氷来る
月光や千島につづく流氷原
流氷や廃船に彳ち猫を抱く
北海道流氷王国出来るのか
流氷の芋洗ふごと押し寄する
流氷やスイムスーツが眩しかり
流氷の寂しき町に暮らしけり
流氷見鍋を囲んで酒旨し
流氷といふ危ふさの上に立つ
海明のラインは近く轟けり
国境の海流氷の埋めけり
寂寞と海覆ひけり流氷群
流氷やグラスの中にジャズを聴く
北端のその突端の海開くる
流氷原ペテルギウスの赤登る
陸も海も流氷の季や真白なり
流氷のかほそき岬覆ひけり
流氷のアザラシとなりどこまでも
流氷やスクラムハーフ疾走す
青年のまた村を出る流氷期
流氷の来りて淋し去るはなほ
流氷来賑はひといふほとでなく
海の紺帯び流氷の押し寄せ来
流氷や滞る成り立ちに馳す
流氷に向かふレールの錆びにけり
流氷の割れて鱗の光追ふ
流氷来ドイツ人ゐるパチンコ屋
流氷のもたらす幸を指に折る
流氷よ鳴いておくれよ夜は明ける
流氷や天気図の上容あり
流氷やざんざざんざととよみをり
流氷の現れし日に父帰る
流氷や夕迫り来る国境
身を窶し流氷の旅終えにけり
堂々と流氷来るむのたけじ
流氷の着きて宗谷や神の刻
流氷の犇く探査船の先
セスナ機の下流氷と黒い海
朝日浴ぶ流氷少しづつ解ける
流氷や水面に帯びて滞る
流氷や家族のように集まれり
流氷に灯台ぽつりさびしけり
流氷の断面に吸ふ海の碧
網走といへば健さん流氷期
流氷の圧政破る黒き潮
流氷の町にひとつの郵便局
一年に一度の逢瀬流氷来
流氷の来れば闇を引き摺りし
流氷の海押し合いて軋みけり
流氷の近づく音のなかりけり
息つめて流氷の割れていくのを見て
流氷やアザラシ親子が眠り居り
流氷の音青年は明日発たむ
流氷を離ればなれにする船首
流氷来決意を秘めて空を見る