「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』２０１７年４月２８日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【荷風忌】
谷崎はよく読み荷風忌信じない
荷風忌の馬楝押し磨る香りかな
荷風忌や銘酒屋めいしや（ママ）跡の歯科医院
荷風忌や天衝く塔の雲隠れ
玉の井の捨て湯かぐはし荷風の忌
黄昏の都々逸かなた荷風の忌
迷宮の名残ある路荷風の忌
吾妻橋渡り荷風の忌の芸妓
大川に風の行き交ふ荷風の忌
墨堤の昼の静けき荷風の忌
荷風忌や投げ込み寺の無縁墓
底抜けに空晴れ上がる荷風の忌
荷風忌や通るおみなの足を見る
荷風忌や鳥語を喋る女ゐて
裏町をほつつき歩く荷風の忌
カツ丼の蓋を置く位置荷風の忌
荷風忌の橋にもたれて一日かな
荷風忌の大川端を歩みけり
足拍子浸む尾てい骨荷風の忌
荷風句集あらためて読む荷風の忌
姦しとも奻（だん）とも違ふ荷風の忌
荷風忌や脂粉の匂ひとすれ違ふ
荷風忌や息吸い込めり路地歩き
もつを切る厨へオペラ荷風の忌
荷風忌の香水臭き会議室
荷風忌やビーフシチューはじめました
抜けられぬ路地の仕舞屋荷風の忌
春風に駘蕩として荷風の忌
小説の挿絵の道や荷風の忌
暗がりてなほ読み続く荷風の忌
荷風忌や相席の昼ナポリタン
荷風忌のカレーに卵わり落す
首ひねる四文字熟語荷風の忌
荷風忌や憧れるやら拒むやら
荷風忌やモネの画集の三色旗
発禁と共謀罪と荷風の忌
踊り子がスマホ片手に荷風の忌
勲賞より鞄が大事荷風の忌
三畳の寮に忍びぬ荷風の忌
荷風忌やたしかぽん太といふ芸妓
荷風忌や路地裏占める植木鉢
荷風忌の静もむ宵をわたる風
荷風忌やひとりで座る酒の卓
荷風忌やバスに抜かるる荒川線
古書店のあるじうんちく荷風の忌
用も無し浅草に出て荷風の忌
西日射す玉の井稲荷風の忌
裏町に溝と質屋や荷風の忌
荷風忌や蒼き影おく白土塀
荷風忌や色とりどりに移民の子
かつ丼に一本つけて荷風の忌
長唄の稽古の聞こゆ荷風の忌
荷風忌や窺い知れぬ老の闇
血の出たる指先を吸ふ荷風の忌
向島芸者に知人荷風の忌
二階には手を取りあひて荷風の忌
荷風忌や足裏清しき日和下駄
淡々と記す日常荷風の忌
荷風忌に花を訪ねて北山へ
ニーチェなど語り尽せや荷風の忌
五種類の餡ぱん並ぶ荷風の忌
青き櫛置く荷風忌の浄閑寺
号外の声を張り上げ荷風の忌
汁粉屋のしばしの笑語荷風の忌
荷風忌や千住に北と南あり
親子丼頭大盛り荷風の忌
静脈の朝日に透けて荷風の忌
川風に尺八かすか荷風の忌
遊惰の火また立ち上る荷風の忌
ふらんすの子のメール来し荷風の忌
コールタール塗る板塀や荷風の忌
荷風忌や埃まみれの本の山
荷風忌やカフェーで食べるカツサンド
荷風忌やなまめかしきは人と風
五十音だけでは足らぬ荷風の忌
遊郭の名残がここに荷風の忌
シリアルのミルクはまーだ荷風の忌
荷風忌や灯れど暗し溝の端
残る花も散る花もよし荷風の忌
谷崎を読み荷風忌は忘却し
荷風忌や休みの多し古本屋
荷風忌の潮の香のぼる隅田川
荷風忌やボルサリーノは日に褪せぬ
質店に吾のものを受く荷風の忌
荷風忌のにんじんごはん芳しく
むらさきの看板欠けし荷風の忌
荷風忌に酔はれて紅をささぬ女
茶屋街の細き人影荷風の忌
踊り子に渡すショコラや荷風の忌
後影残す芸者や荷風の忌
荷風忌や斜陽に赤し連子窓
襟足のふたつ黒子よ荷風の忌
荷風忌や玉の井にまだ標あり
磐陰の花に春光る荷風の忌
裸婦像の薄き埃や荷風の忌
荷風忌や昭和は遠くなりにけり
荷風忌や弁当がらの三つ四つ
荷風忌や日のあるうちの屋台酒
脱ぐシャツに伽羅の残り香荷風の忌
荷風忌や少女の白き踵かな
足裏を拭き荷風忌の夜と思ふ
荷風忌やふいに出喰わす浄閑寺
ポリゴンの砕け続けて荷風の忌
こんなにも乙女ら嬌声葱坊主
逃げ惑ふ爆弾の下荷風の忌
荷風忌や枕辺に来る請求書
荷風忌や読まれることもある日記
路地裏にぬるき風ゆく荷風の忌
指定席ありしうなぎ屋荷風の忌
荷風忌のバスで巡るや花魁ショー
ドブ板とマンホール踏んで荷風の忌
木の門の古りし家なり荷風忌に
荷風忌や独裁政治を打破したい
襦袢より白きくるぶし荷風の忌
風呂敷を抱へ姐さん荷風の忌
荷風忌や女将と比べ妻を見る
老木に仇花一輪荷風の忌
浅草に白粉を買ふ荷風の忌
その一句もとでがかかる荷風の忌
荷風忌のオムレツの黄は咲くごとし
荷風忌や六畳で足る我が書斎
荷風忌のくるりと廻るトラクター
荷風忌や紳士に帽子忘れらる
荷風忌のツインテールのおほきまなこ
荷風忌の書斎の膝の上に猫
葡萄酒の次は日本酒荷風の忌
荷風忌のメイド喫茶のチラシかな
出戻りし庭かしましき荷風の忌
踊り子の赤き口紅荷風の忌
古書店に「宝石」ありて荷風の忌
荷風忌や北京語交ふ深夜ラヂオ
荷風忌や間接的によく接し
昼さがり風呂を焚きつけ荷風の忌
荷風忌や妻美しく見えるやら
荷風忌の昔は昔であります
川風に吹かれて永井荷風の忌
荷風忌や大提灯の軋む宵
荷風忌や手児奈御堂の石畳
丸眼鏡カフェの灯映る荷風の忌
荷風忌や皿のご飯を箸で食う
荷風忌や貫く棒の如きもの
荷風忌やそぞろ歩けば昭和見ゆ
断腸花の芽のまだ萌えず荷風の忌
賛否臆せずけふはカツ丼荷風の忌
荷風忌の近づきみちのく花盛り
荷風忌や人待ち顔の店灯り
荷風忌の膠煮てゐる電熱器
荷風忌や揺れてきらめくイヤリング
ピースして傘寿一笑荷風の忌
荷風忌の使い込まれし手錠かな
荷風忌や同じき道を今歩く
荷風忌や或る街はまだ濡れてをり
どうしても書けぬふみあり荷風の忌
珈琲のおかわりもして荷風の忌
新内を口三味線で荷風の忌
小説や荷風忌よりも団子かな
荷風忌や父の背広を貰ひ受く
日和下駄鼻緒の切れて荷風の忌
荷風の忌金の草鞋の硬きかな
荷風忌や東京へ行く自由席
荷風忌や仏蘭西語で言ふ桜の名
荷風忌や名も知れぬ落語家過ぎぬ