きんようブログ 社員エッセイを掲載。あの記事の裏話も読めるかも!?

兼題「夜なべ」__金曜俳句への投句一覧
(9月29日号掲載=2017年8月31日締切)

「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。

選句結果と選評は『週刊金曜日』2017年9月29日号に掲載します。

どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【夜なべ】
リスナーの手紙夜なべの耳は聴く
夜仕事や繕ひ物の布荒く
夜なべして駅に開いた蕾かな
夜なべする部屋の何処かに電子音
ナイターや夜なべの続きはかどらず
コピー機の光を回す夜業かな
島灯り若き杜氏の夜なべかな
夜業して母信号のパーツ組む
月影を踏んで戸を鎖し夜なべ終ゆ
繰り返す「もう少し」なり夜なべの灯
根詰める癖は母似の夜なべかな
夜なべして身ほとり灯す孤島かな
夜なべの灯明日入院の母が消し
乾物屋に乾物の匂ひ夜なべ小屋
むかしむかしじいじとばあば夜なべして
夜仕事や輝き匂ふ溶鉱炉
夜なべして苦吟名句のほど遠し
味噌汁や夜なべの母の離れ業
金銀の絵の具溶きつつ夜なべせり
夜なべすと昔語りの祖母の眼の
型込めに夜気忍び寄る夜業かな
リターンキー押して夜業の終はりけり
夜なべする地球の音の尽きるまで
青いシャツ夜なべの母は我のため
床板に少しつまずく夜なべかな
想い出のアルバム作り夜なべして
家計簿の収支合はざる夜なべかな
一人親子思ひ案じ夜業をす
夜(よん)なべとふ言葉消えぬる過疎の村
警告音あちこちで鳴る夜業かな
故郷の香りを荷解く夜なべかな
目薬の目よりこぼるる夜なべかな
白々と明けて鳥鳴く夜なべかな
一筆の一息長き夜なべかな
原稿に墨汁倒す夜なべかな
イヤホンで野球聞きつつ夜業かな
小さきらの夜なべの窓に集まり来
家業継ぐ気の有る無しや夜なべかな
無我になりアイロンかける夜なべかな
夜なべ終え窓に日の出の曙光あり
夜なべする向かひの畑うごくまで
夜なべしてインクに水を足しにけり
焦点を合はせ夜なべの顕微鏡
曾祖父の武勇伝聴く夜なべかな
鼻めがね夜なべ仕事の刺し子かな
末つ子の見様見真似の夜なべかな
夜業終えうんと言い出す冷蔵庫
思い出すことみな遠し夜なべかな
夕刊紙読む気力なき夜なべかな
夜なべなる言葉消えゆくせわしき世
夜(よん)なべに縄綯う父の手厚かりき
夜なべする人夫の姿カンテラが
夜なべとは夜鍋のことや遠き過去
夜なべ終え島の形のあらはるる
夜なべする祖母のかたえで孫眠り
夜なべ妻ジャズを好きとはつゆ知らず
羽織物一枚増やす夜なべかな
残業と夜なべは違ふ母の顔
夜なべする深夜放送友連れに
夜なべして厨いつぱいジャム香る
間に合わぬ男とさるる夜なべかな
山折りの直ぐなりゆける夜なべかな
タクシー代惜しみ夜業のあとの酒
母である自分のための夜なべかな
夜なべして国家流れるテレビ消す
夜なべなる痕跡消して帰宅せし
其の昔脇本陣の夜なべかな
トラックに夜なべ仕事の数を積む
家系図の下書きしたる夜なべかな
零細の旋盤一台の夜なべかな
背番号一(いち)縫ひ付ける夜なべかな
ポンプ車の圧尫弱を夜なべかな
夜業深く窓からのタバコの煙
夜なべして崩れぬ床を崩す母
競い合う母の夜なべと宿題と
夜なべの灯アンとダイアナいる窓辺
猫起きてきてまた眠る夜なべの灯
木蓮の葉音は雨に夜なべかな
夜なべして見慣れぬほどに部屋広き
番組の幾つ終りし夜なべかな
頼もしきミシンの灯りにて夜なべ
夜業する部屋にネオンの灯が映り
団欒や夜なべの母を真ん中に
戸を開けて暁を知る夜なべかな
農小屋に夜なべをはかる時計音
溜め息も噫気も堪へ夜なべかな
大切な人を按じる夜なべかな
夜なべてふひとりの時間サブレ食む
ランプ揺れ夜なべの頭ゆらゆらり
夜なべして狸のしつぽ付けにけり
ガリ切りの音まだ続く夜なべかな
昇降機闇に移動し夜業果つ
母夜なべラヂオ小さくかけにけり
ビルの窓残らず灯し夜業かな
夜仕事や削る鎬と来し方と
不夜城の一室占拠して夜なべ
夜なべせし指に漂ふペンキの香
職人の道具の手入れ夜なべかな
夜なべする存外に田の騒がしき
タクシーの閑かなままで夜なべあと
夜なべしてジャンヌ・ダルクと土佐日記
たい焼きを温め直す夜なべかな
ラジオから「みゆき」零るる夜なべかな
とむらひの白菊を待つ夜業かな
出稿の時を急がす夜なべかな
本伏せて夜なべの吾に戻る頃
夜なべして壁塗る人へカレーライス
ひとことにひとこと応え夜なべ措く
カフェインの効かぬ夜なべのテレビ静か
夜なべとは祖母母の音ごそごそと
わづかなる平成のためする夜なべ
夜なべ妻遠く選句の夜なべかな
パソコンにファイルの増えし夜なべかな
テレビ見て眠れず夜なべインパール
夜なべ終へ記録確かに終電車
母の背の夜なべ姿を見つめをり
名札つけ母の衣類に夜なべかな
シャコンヌの一際迫る夜なべかな
虫たちは夜なべどころか徹夜して
追伸の一行ぼやけ夜なべ尽く
仕上りに合点のゆかず夜なべとす
本読みの時間の失せし夜なべかな
ぬばたまの夜業に檄の声を聴く
夜泣きはじまりて夜なべの捗らず
夜なべする我に付き合う人の居て
内線の告ぐる夜業の数のこと
西方へ貨車の急げる夜なべかな
何時見ても夜なべの母が浮かびして
夜なべした朝に宅配便の来る
ゲラに朱を入れて覚悟の夜業かな
夜なべって何?と笑ふ児その親も
先生は寝かせておけと夜なべの児
藁を打つ夜なべの父を知る娘
反省の言葉を探す夜なべかな
過書船は枚方過ぎぬ夜なべかな
夜なべせし母の変わらぬ早き朝
老いてなお夜なべに廻す針仕事
指先で情報探す夜なべかな
夜なべしてラジオの音の澄みにけり
採りたての惹句の陰の夜なべかな
夜なべする油の臭い路地流れ
ガラス戸に影まだ揺れて夜なべかな
ジャズ流し独り夜業の時過ごす
小人らは寝てゐるらしく夜なべせり
街の灯の減り行く窓に夜なべかな
夜業終ふ都会の川の墨のごと
夜仕事やいよよ尖るは研磨音
寝てる間に夜なべ母さん働きに