兼題「胡桃」__金曜俳句への投句一覧
(10月27日号掲載=2017年9月30日締切)
2017年10月6日7:25PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2017年10月27日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【胡桃】
甘胡桃疾うに切れたる賞味期限
呪われた夜は物騒胡桃見る
うつうつと胡桃つまみにウイスキー
勉学の空腹埋むる胡桃かな
カウンターバーの止まり木胡桃割る
胡桃持ち定刻過ぎしバスを待つ
引き出しのコインの横の胡桃か
胡桃割る声筒抜けの薄き壁
奥飛騨の飢餓の史談や胡桃割る
財宝は鬼胡桃なり餓鬼大将
胡桃割るむづかる子供あやしては
胡桃落つ青き石果をつけしまま
深呼吸して胡桃割る夜更けかな
山胡桃水に潜らせ炒るが良し
小指の皺で胡桃の皺をなぞる
沢胡桃下の畑にゐるといふ
衆院選出馬取り止め胡桃落つ
ハンマーの音に反応胡桃落つ
あなどれぬ妻の腕力胡桃割る
胡桃色の鹿の子絞りや妣(はは)似合ひ
胡桃割るあたまからつぽなるままに
胡桃割る女と男仲違ひ
小包に故郷の胡桃ざくざくと
禁煙の灰皿に割る胡桃かな
果肉喰まれ胡桃に堅き皮と黙
北国に物語あり鬼胡桃
胡桃割る読みたき本を先に出し
五年目の活計に慣れぬ姫胡桃
胡桃かむ音ゆつくりになる朝(あした)
所在無く胡桃と遊ぶ妻の留守
安酒場胡桃つまみに長談義
胡桃パン朝より昼に期待する
客船のロビーを胡桃転がりぬ
すべりこむくるみやわくて歯のおくへ
気負ふもの少なくなりて胡桃割る
胡桃割る祖母は地粉を打つてゐる
アメ横の路地に着きたる胡桃かな
万年の果ての胡桃と思いけり
掌に馴染み艶めく胡桃かな
木ねずみの胡桃噛む音山の宿
疲れたよ笑顔抱き上げ胡桃ちゃん
胡桃食ぶ血圧上がりのち下がり
胡桃の実握る指みな痺れます
胡桃割る指ぎこちなくキーボード
割りたきと胡桃拾ひて河原寄る
胡桃喰むひと言足りぬ苦さもて
貰ひ酒胡桃を割りて味試す
胡桃割る父の手つきを真似しつつ
唐土の古代文字めく鬼胡桃
割れてより一手間かける胡桃かな
空室の多きラブホや胡桃割る
世界から胡桃ピーナツ人袋
胡桃喰むペン蛸ひとつぢつと見て
凸凹の馴染むてのひら胡桃かな
胡桃うつフンザの眼碧き子ら
タキシード裏地の色や胡桃割る
胡桃割る人形兵の鼓笛隊
胡桃煎る孤独の闇に迷ひつつ
言葉にも一撃のあり胡桃打つ
夫のうそ胡桃の中に閉じこめる
胡桃の木伸び放題の過疎の村
てのひらに使い古しの胡桃鳴る
ヌンチャクの一振り胡桃割れにけり
胡桃鳴る家族でめくる写真集
小動物くるみのオブジェ見惚れけり
胡桃二個握りぐりぐり気持ち良き
遺したる詩集はひとつ鬼胡桃
自動車で運ぶ胡桃の十四五個
磨り潰す胡桃や手術痕綺麗
どうしても割れぬ歳月胡桃かな
軒先に陽射し集めて鬼胡桃
深煎りの豆の珈琲胡桃割る
廃屋の背戸に胡桃の老樹かな
世渡りの下手な男や胡桃割る
大嵐胡桃を落す大樹有り
昼下り木の葉舞い降り胡桃落つ
山の子は素手で割りたり鬼胡桃
大振の擂鉢で婆胡桃味噌
胡桃落ち遠巻きの栗鼠跳ね始む
胡桃割るひとり藤村読む時間
鴉去り胡桃転がるアスファルト
胡桃割るその一瞬の手のちから
風吹いて墓石の上に胡桃かな
胡桃割るレコードブーム再来す
くるみくるみころがる先の太平洋
陰嚢の内と外めく胡桃かな
ポケットの胡桃子供に気付かるる
胡桃割る信濃に住みし時ありて
山胡桃出羽に木乃伊のゐます寺
氏素性のこし加減に擂る胡桃
朝焼やカフェの仮屋根胡桃落つ
木のやうなベンチ硬さ胡桃割る
胡桃割る妻が珈琲挽く横で
去勢した犬くるみ割る音ほのか
まだ青い胡桃落して手を染めて
やすらぎは夜の一人居胡桃割る
胡桃割る記憶の残滓見るごとく
老いの手に玩ばれて胡桃二個
中風の祖父に拾いし胡桃かな
強力粉胡桃包みて脹れけり
艶々に布で胡桃を磨きけり
老練の頭蓋のごとし胡桃の実
胡桃ひとつ夜半に落ちて闇に溶け
胡桃割る排便の吾子顔赤る
今頃は月に着きしか胡桃割る
手の指は胡桃を鳴らすためにある
人形の勝負にならぬ鬼胡桃
智慧の輪を解くやうに剥ぐ割り胡桃
振り向けば夜の底に降る鬼胡桃
やはらかな水の匂ひの胡桃かな
しばし置きそのまま戻す夜の胡桃
学習を重ねしカラス胡桃割る
身も潰す孫の試すや胡桃割
鮎簗簀胡桃ばかりが転がりつ
人形のような顔して胡桃持つ
胡桃割る母と厨の世話ばなし
学習の鴉の落す胡桃かな
胡桃落つ鹿の声聞く山の湖
憎しみを込めたるごとく胡桃割る
胡桃割る父の手かつて砂金掘る
糠漬けの横に胡桃の売られたる
胡桃パンかすかな味の老夫婦
握りたる固き胡桃の丸さかな
胡桃割る空隙満たす時重く
胡桃割る何か心のときめきて
失恋の記念の日記胡桃割る
握力は胡桃使つて開発す
鬼胡桃鬼のごとチャイコフスキー
胡桃割る決意ひとつと悔ひひとつ
胡桃割る海にも音がなき時間
踏んづけて胡桃と男ハイヒール
何が不満猫を胡桃にじゃれさせる
橋ひとつ渡るところに鬼胡桃
偉人伝読みしあの頃胡桃割る
寡黙なる胡桃に似たる漢かな
あかときに拾ふ胡桃や峡の里
みやげ屋の陶栗鼠に置く胡桃二個
レコードをまた裏返し胡桃割る
胡桃割る日向を猫と分け合うて
胡桃握る言いたきことを堪えては
サラダバー最後に選ぶ胡桃かな
胡桃落つむしろラッキー感じたり
てのひらに胡桃ころころ呆け防止
左手に胡桃右手に妻のアレ