兼題「春の夢」__金曜俳句への投句一覧
(3月30日号掲載=2月28日締切)
2018年3月13日1:55PM|カテゴリー:櫂未知子の金曜俳句|admin
「櫂未知子の金曜俳句」投句一覧です。
選句結果と選評は『週刊金曜日』2018年3月30日号に掲載します。
どうぞ、選句をお楽しみ下さり、櫂さんの選と比べてみてください。
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【春の夢】
春の夢抱いた男に顔がない
みんなみんなまだ生きている春の夢
目覚めたる時に消え去る春の夢
牛車揺る源氏絵巻や春の夢
春の夢Jアラートに乱される
春の夢砂塵たゆたうなかの子ら
春の夢むかし魚でありしこと
身の程等知らぬ存ぜぬ春の夢
春の夢ぽっかり浮かぶ無人島
春の夢いたるところに落し穴
わたくしの五人ほど居て春の夢
石地蔵そのかんばせに春の夢
エッシャーのだまし絵に似た春の夢
春の夢痛まぬ傷をつけ合へり
春の夢ガールズ・ビー・アンビシャス
紅付けて入りゆかむとす春の夢
モノクロの差し色は紅春の夢
触感がまだ手に残る春の夢
ふるさとはいつも花咲く春の夢
まだ若き母に抱かるる春の夢
通過する車に春の夢を見て
春の夢より覚め今日は師の忌日
映画のようなパートカラーや春の夢
あやしくも胸内の燃ゆる春の夢
星に佇つたつた二人の春の夢
春の夢鏡を撒きて星いまだ
散歩する路傍の草の春の夢
一階邦画二階は洋画春の夢
春の夢つかみどころのあるものも
夢を見る舞台装置の春ごたつ
何処までが現か先は春の夢
春の夢しろく濁りしソノシート
春の夢醒めて身体に違和のあり
銀河鉄道に発車のベルや春の夢
春の夢出歩く時のカメラかな
春の夢紺の洗面器のゆがみ
甘噛みのかすかに痛み春の夢
いたはりを擲つて入る春夢かな
春の夢目覚めるときの泪かな
みづうみの中心にゐて春の夢
光差し君の声する春の夢
水底に動かぬ魚や春の夢
春の夢芭蕉と歌仙巻いてをり
春の夢自信に満ちて持ちし頃
小さき手は母の頬杖春の夢
執りし手の失せて覚めけり春の夢
春の夢醒める時刻のあいまいに
九回の二死満塁や春の夢
春の夢みたか乙女の恥じらいて
息吐きて終はりし春の夢ひとつ
吉報を待ちて一夜の春の夢
咲き匂う一輪の花春の夢
たくらみもしかけもなきが春の夢
葡萄牙からの客人春の夢
亡き友が可愛い声で春の夢
春の夢凸面鏡を行き交へり
卵割のあたりから見る春の夢
春の夢の中でも母を泣かしをり
じじばばで筋斗雲乗る春の夢
春眠や南京錠がまだ開かぬ
ぼかしたるセピアに染まる春の夢
独身の娘に王子春の夢
聳え立つ太い樹木や春の夢
定年の足の向くまま春の夢
春の夢瞼の裏にある記憶
フロイトの本を探すや春の夢
春の夢握り賜いしやや子の手
春の夢見たと一言吾子十六
スーパームーン山・川・空に春の夢
一駅の間にパリへ春の夢
出口を抜けても抜けても春の夢
春の夢俺がスカート穿きてをり
人生の句読点なり春の夢
春の夢醒めてくれるないま暫し
春の夢さめてより後悔はじまる
獏を呼ぶ暇に消えし春の夢
声のなき人に声掛け春の夢
春の夢やや艶いて尾を引けり
まつすぐに汀を歩く春の夢
潮騒の枕元まで春の夢
温もりも思い出されて春の夢
春の夢昔の人と若き我
階段を上り下りする春の夢
春の夢酸素の足りぬ宇宙服
宝石の生りだす庭木春の夢
春の夢一本道を何処までも
Jアラートに邪魔をされたる春の夢
ふつふつと湧く春の夢ただ抱く
春の夢一族郎党総出なり
逢いたくて秘めた感情春の夢
目覚めれば甘き香にほふ春の夢
春の夢砲台ありし和田岬
春の夢アテネはやはらかくひかる
母笑う車椅子押す春の夢
膝上の猫もみるらし春の夢
春の夢夢のつづきの音色弾ひてをり
天を飛びひやりと目覚む春の夢
川の水増減は無し春の夢
春の夢夢の御者は夢の中
春の夢神を相手に糸電話
杳として応えぬ電話春の夢
春の夢目覚めた後の火照りかな
小豆色の婚姻届春の夢
ふるさとに心の花見春の夢
春の夢シャレコーベは灰の中
春の夢薄桃色の目覚めかな
残り香を残らず吸ひての夢
屋根に干す寝袋に春の夢嗅ぐ
老夫婦どうやら同じ春の夢
戦無き流れ定まる春の夢
櫂の音を起点に醒めて春の夢
春の夢詰込む旅の鞄かな
春の夢虞兮虞兮奈若何
春の夢覚めて平和な雨の朝
いっときの愉悦に浸る春の夢
ポケットに拾ひし星や春の夢
彼に手を取られ円舞に春の夢
二丁目の魔子のドレスや春の夢
夢覚めて薬探すや春なのに
春の夢みてゐて丸む老ゆる犬
嫁の来ぬ息子に天女春の夢
大掴み春の夢果せ豆散りぬ
蜘蛛の糸を登る岳人春の夢
大轆轤回す来し方春の夢
母許のゆるる羊水春の夢
おほかたは天然色の春の夢
秘め事の恋をスマホに春の夢
春の夢百歩の冢も草野原
廃番屋盛衰の跡春の夢
春の夢初恋しまふポケットに
春の夢見終えぬままに成田着
誰よりもはしやぎたる妻春の夢
先輩の春の夢なる爪の色
もも色のズックで走る春の夢
春の夢妻が掃除をしてをりぬ
春の夢からくり時計見てをりぬ
俤の攫われやすき春の夢
飛び石のつまずく間合い春の夢
二の膳の前に覚めたる春の夢
現れよ鶴見俊輔春の夢
うららかに春の夢みるみぞれかな
春の夢幾世の春が繰り出しぬ
春の夢醒めて尻尾をたしかめる
格好よき寝癖のつきぬ春の夢
ダムの水消えた野原や春の夢
春の夢空にでっかく舞い失せる
春の夢死ぬも殺すも吉と言ふ
止まり木に紅差す女春の夢
春の夢続きウエブにありさうな
ほろ苦き火星の雫春の夢
春の夢小さな花を見つけたし
春の夢後藤包の二百両
逝くときは花散る中を春の夢
春の夢モジリアーニの頬青む
長編のドラマ終へたる春の夢
島流し山流しとて春の夢
春の夢苦き思いと共に見る
田舎道ゆっくり歩く春の夢
中学の初恋淡き春の夢
朝食ののろけ話や春の夢
現れし君も見遣るや春の夢
燃え上がる空襲の街春の夢
憂愁と倦怠の夜の春の夢
しばしのち春の夢かと夫の言ひ
春の夢エロスの神の悪戯か
異国より嫁を貰ひし春の夢
桜咲く里の富士山春の夢
春の夢涙か汗か枕染む
春の夢さめて独りと気付くなり
束脩に臍繰り充てむ春の夢
春の夢まるでつげ義春のねじ式
声変わりしてあどけなき春の夢
春の夢旅行とカラオケだけなのか
春の夢眠れる魂を揺り起こす
たまゆらのペガサスに乗る春の夢
猫の手に薄き痣あり春の夢
妖艶に乱るる心春の夢
また同じところで呼ばれ春の夢
春の夢光を廻す風車
春夢にずらりと並ぶ鏡かな
永遠の張子の虎か春の夢
懐かしき少女見遣るは春の夢
春の夢知らぬ名前が靴下に
ふとん屋に下宿先告げ春の夢
せせらぎのをちこちきこゆ春のゆめ
暫くは動悸止まらず春の夢
枕辺をいつしか濡らし春の夢
春の夢醒めても春の夢らしく
春の夢逢ひたき人に会へぬまま
春の夢覚めれば羽根のなき躰
春の夢眼鏡をかけしこと忘れ